持続可能な社会を目指す、パタゴニアの取り組み
昨年、日本で本格始動した〈パタゴニア プロビジョンズ〉なる食品事業。「アウトドアメーカーが食品?」と思うが、その根底には同社が貫いてきたエシカルな精神がある。
「“ビジネスを使って環境問題に警鐘を鳴らし、解決に向かって実践する”というのがパタゴニアの企業理念。これまで環境や社会に負荷をかけないビジネスモデルを実践してきましたが、今度はその実績を食品の分野で生かそうと考えました」(パタゴニア日本支社/近藤勝宏さん)
パタゴニアは1993年、廃棄ペットボトルからリサイクル・ポリエステルを製造し、フリースなどの衣類に応用。96年には綿製品の100%をオーガニックコットン製に変更するなど、常に社会や消費者にとってよりよい方法を模索し、実行してきた。こうした理念は創業者イヴォン・シュイナードによるもの。事の始まりは70年代、彼がパタゴニアの前身であるクライミングギアの製造会社を経営していた頃にまで遡る。
「クライマーでありギア開発者でもあったイヴォンは、自分が作った登攀用ギアが岩肌をひどく傷つけていることを知ります。これでは次の世代にこの素晴らしい岩場を残せない。そこで岩肌を傷つけないギアを開発。クリーン・クライミングという新しいスタイルを提唱したんです」
アウトドアスポーツを愛する者にとって、自然は大切な遊び場であり、後世に残すべき財産。自分たちのビジネスを通してそれを守っていこうと思うのは、自然な流れだった。
「気候変動や生物多様性の問題など、今僕たちはギリギリの地点に立っています。その要因の一つが食品産業。効率重視の大量生産・消費のあり方が地球を破壊しているんです」
〈パタゴニア プロビジョンズ〉のキーワードは「環境の再生」。単なるオーガニックではなく、作物を育てることで土壌を健全にし、野生の魚を管理しつつ捕ることで生態系を修復する。環境に寄り添う方法で生み出された素材を使用した食品だ。
「例えばビール。原料はカーンザという新種の多年草小麦です。一般的な小麦は1年で枯れる一年草のため、毎年作付けをするたびに表土が削られ土が劣化しますが、多年草なら劣化はしません。カーンザは3mほど根を張り、光合成で取り込まれた二酸化炭素を地中深くまで届けます。土がそれを地中にとどめるので、温暖化の原因となるCO2削減に一役買ってくれるというわけです」
環境に負荷をかけないばかりか、改善の手助けができる農業。夢のような話だが、パタゴニアが提唱するのは、そんな“未来の食づくり”だ。
「世界規模の企業に比べ、僕たちは小さな会社です。だからこそビジネスモデルや技術を他社に公開し、時には指導もします。事実、オーガニックコットン事業には複数の大手アパレルメーカーが視察に訪れ、情報共有しました。例えば彼らが自社製品の10%をオーガニックに変えるだけで、大きな影響を持つんです。食品事業も同様、パタゴニアが旗振り役となることで信念を持つ仲間が集まり、大きなムーブメントになれば」
近藤さんいわく「お金は一票」。自分が賛同する企業の製品を買うことは、その背景にある活動に賛成票を投じる活動だ。個人の一票の積み重ねが、時に社会を大きく変え得る力を持つことを私たちは知っている。その一票をどこに投じるか。日々の買い物のなかで、立ち止まって考えるべき時代に私たちは来ている。