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パリの花文化を支える、三人三様のフローリストたち

パリの人たちにとって花は欠かせない。日常的に花を贈り合い、金曜になれば週末に楽しむ花を自宅に買って帰る。パリの花文化を支える個性豊かなフラワーショップの中から、いまのスタイルを代表する、3人のフローリストを紹介する。「パリを代表する花屋〈ドゥボーリュウ〉による、墓地でのインスタレーション」もあわせて読む。

photo: Lucie Cipolla / text: Masae Takanaka

コンポジションが詩的なブーケを創る〈Debeaulieu〉

パリで「贈り物で一番嬉しいのは〈ドゥボーリュウ〉のブーケ」と言われるほどの人気と実力。フローリストのピエールは染め花やドライフラワーを使ったブーケの火つけ役であり、彼が生み出す独特の花のプロポーションは「ドゥボーリュウ・スタイル」と呼ばれ、パリの花屋で一つのスタイルを確立させた。「最近は15世紀、16世紀の中世のアンティークが自分の花のインスピレーション。素材感が生かされたミニマムでピュアなものが好きですね」。ピエールのようなフローリストはパリでも新しいトレンドといわれており、実際に〈ドゥボーリュウ〉はパリの人気花屋のインスピレーション源にもなっている。

現代アートのようなミニマリストの花屋〈Castor Fleuriste〉

最近になって、「面白い花屋ができた」とよく名前を耳にするようになったのが、北マレにある〈カストー・フルーリスト〉だ。人気のセレクトショップ〈ザ・ブロークン・アーム〉や〈ルメール〉など、ファッション関係の店舗デコレーションを手がけることが多いという。ショップ兼アトリエは花屋というよりはアートギャラリー。店主のルイ・カストーは実際に画廊でアートコンサルタントの仕事を経てフローリストになった経歴の持ち主。「マルシェに寄って花を買って帰るのが好きでした。花を持ちながら歩く時間って幸せだと思いません?」。彼のブーケの特徴はとにかくミニマムなこと。従来の花の手法にはまったく興味がないという。「最初に花の学校に入ったときはいまだに丸いブーケを教えていたんで驚きましたよ。僕はラインを生かしたシルエットが好きなんです。野に咲く花のような、自然の流れを感じさせる花を作るのが理想です」

丘の上のロマンティックな花屋〈Muse Montmartre〉

〈ミューズ・モンマルトル〉は、イラン出身でもともと会計士をしていたというマジッド・モハメドがオーナーの花屋だ。北マレにある〈ラルティザン・フルーリスト〉で7年間働いた実力者。2013年に念願の自分の店を持った。「モンマルトルは大好きな場所です。パリの昔ながらのいいところがたくさん残っている小さい村のようなところ。地元密着でアーティスティックな客が多いですね」。染め花など、品揃えはピエールの店にも似ているが、よりロマンティックなのが〈ミューズ〉。「私のブーケは色をたくさん使うことが特徴ですが、最後には絵画のような色彩のハーモニーを奏でることを目標にしています。ブーケにしても、花瓶に挿すにしても、動きのある花を作るのが好きです」

パリの三人三様のフローリスト。パリジャンが愛してやまない花を、それぞれの手法でどのように進化させていくのか、これからも楽しみだ。