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パリを代表する花屋〈ドゥボーリュウ〉による、墓地でのインスタレーション

パリの人たちにとって花は欠かせない。日常的に花を贈り合い、金曜になれば週末に楽しむ花を自宅に買って帰る。パリの花文化を支える、ピエール・バンシュロウ(フラワーアーティスト)を紹介する。「パリの花文化を支える、三人三様のフローリストたち」もあわせて読む。

photo: Lucie Cipolla / text: Masae Takanaka

いまのパリを代表するフローリストといえば、〈ドゥボーリュウ〉のピエール・バンシュロウをおいてほかにいない。モードの登竜門として知られる、南仏の『イエール国際モードフェスティバル』でのインスタレーションや、パリのファッションウィークのショー展示会場でのデコレーションなど、〈ドゥボーリュウ〉に花を頼むのはいまやステータスと言っていい。そんなピエールの花を誌面で紹介したいと相談したところ、墓地でのインスタレーションを提案された。

南仏ヴァロリスの花瓶とブーケ
墓地に花を飾るべく、コレクションしている南仏ヴァロリスの花瓶に完成したブーケを入れてピエールが登場。モンマルトル墓地はパリジャンにとっては定番の散歩道。


「パリでは墓地は定番の散歩道。地方ではあまり墓地を散歩する習慣はないので、とてもパリ的なことかもしれませんね。静かだし、美しい墓を見るのも楽しい」。ピエールは撮影のために南仏の陶器の町ヴァロリスで作られた60年代アンティークの花瓶を持ってきた。中にはブルーグリーンの菊の花、オレンジのアジサイ、マゼンタピンクのラン、大輪のガーベラ……、繊細なラナンキュラスは日本からの輸入花だとか。「花を供えるというより、この美しい場所に自分の花を一度置いてみたかったんです。墓地は時間の止まった静的空間なので、動的な花が映えるはず」。ピエールは定番の花を使いながらとてもモダンな雰囲気に仕上げる。

完成した花瓶を石棺に置いた後、今度はその花瓶から次々と花を抜き取っては、墓地に飾りつけていく。まだ寒さの残るグレイッシュなパリの墓地がその瞬間、その一角だけが、まるで異空間のように鮮やかな色彩に包まれた。

花を贈ること、買うことは、パリでは日常的なこと。パリジャンにはお気に入りのパン屋が誰にもあるようにお気に入りの花屋がある。自分の家用に、ディナーに呼ばれたときの贈り物として、愛する人に贈るために。用途は様々だが花を買うことは、生活に密接している行為なのだ。