レーベルがプレス工場を運営する強み
水谷
レコード盤を外注してプレスする場合、もろもろ経費がかかります。しかし、今後P-VINEの場合は〈VINYL GOES AROUND PRESSING〉は自社のため、シングルなど、手ごろな値段設定にしていく予定です。P-VINEから作品を発表するアーティスト、特に新しいバンドやシンガーから、7インチシングルを発表したい旨のリクエストが増えていて。2000円前後で販売できる7インチシングルの需要は伸びています。
山崎
ブラック・ミュージックに関して。1970年代に活動していたウェルドン・アーヴィンやマイティ・ライダースといったアーティストの権利を、現在P-VINEが取得しているので、さまざまな形態でリイシュー盤を発売しています。2組とも、90年代にレア・グルーヴ ムーブメント、そしてヒップホップのサンプリングソースとしても人気が高く、今でもリイシューされるたびに、海外からのオーダーも入ってきます。
水谷
個人的に、90年代当時からアメリカのブラック・ミュージックやヒップホップが大好きで、レコード店の壁に高額盤として飾られたウェルドンのレコードを、憧れの眼差しで見ていたんです。それを自社でプレスするなんて……非常に感慨深いんですよね。
そんな音楽体験から、USプレス盤に思い入れがあって。アメリカの工場でプレスされるレコードは、ジャケット部分を熱収縮フィルムで包装する、いわゆるシュリンク盤と呼ばれているものなのですが、それが大好きなので、〈VINYL GOES AROUND PRESSING〉にもシュリンクマシンを導入したんです。国内ではシュリンクを扱っているプレス工場は見かけないんですが、社長の独断と偏見で機材を入れました(笑)。

ライブも開催!?多目的なプレス工場を目指して
水谷
今後の目標としては、まずプレス機は増やそうと思っています。
増田
レコードには12インチ、10インチ、7インチという3種類のサイズがあります。各サイズの作品をプレスするごとに、モールド(金型)を変えなければなりません。それぞれ重量があるので、とにかく大変。将来的にはピクチャー盤など、特別盤のことを考えると、材料から周辺機材も変えなければならず、1台だけでは回らなくなることが予想される。2台あれば、1台目で12インチサイズのLP、2台目は7インチシングルをプレスするイメージで進められるんじゃないかと。
山崎
シティポップなどの中古7インチのブームは落ち着きましたが、価格帯を踏まえて、レコードショップなど、販売側からはまだシングルの需要が高いんですよね。
水谷
わたしと山崎は、90年代からレコードを買ってきたので、12インチシングルの魅力をよく理解しています。10曲くらい収録されているアルバムに比べ、シングルの場合は原曲とリミックス、インストなど、大体3曲〜4曲を収録する。要するに、アルバムよりも余裕があるので、太い溝が刻める。その分、音圧とグルーヴが出せるんです。
山崎
ラッカー盤やスタンパーの製造コストは、アルバムと変わりません。しかし、昔から12インチシングルにはジャケットがない場合も多く、それを踏襲すれば製作費を落とせるので、手ごろな価格設定もできるかもしれないですね。ヒップホップやディープハウスなんか、いいかもしれない。いろいろなレコードの魅力を楽しんでほしいんですよね。
水谷
それから、考えているのは工場内ライブ。1階部分をステージにして、お客さんに中2階から見てもらうという。そのライブ音源をそのままプレスして、お客さんが帰る時に買ってもらうというのが目標ですが……それは現状では不可能なので(笑)。出演ミュージシャンの既発作品を、出来立てホヤホヤの盤で販売したいですね。
増田
ただのプレス工場にはしたくないですよね。ミュージシャンやアーティストと近いプレス工場ではありたいと思っています。
