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オープンマインドになれる音楽。下田法晴の10枚

なにかとストレスの多い時代だから、音楽を聴くことで、少し気持ちを楽にしたい。凝り固まった心をほぐす時、音楽家やアーティストはどんなアルバムを聴くのか。 質問してみたところ、現実逃避や気分転換など用途はさまざまだけど、やはり疲れた心の襞を撫でてくれるような作品が多い様子。下田法晴(音楽家)が選んだ10枚は?

Text: Katsumi Watanabe

哀愁と優しさの音でリセットする。

制作作業など、仕事している時はずっと気を張っています。だから、作業後や休息時には、普段のモードにしてくれる、緊張をほぐしてくれるようなアルバムを部屋で流しっ放しにしているんです。昔から聴き続けているような作品、自分の中の定番の音楽家の作品が多いかもしれません。

ゆったりして、ただ心地よい作品もいいのですが、プラス適度な暗さ、影や哀愁もある楽曲が好きなんです。例えば、70年代からダークでアグレッシブな音楽性で活動するニック・ケイヴ。2000年以降の作品は、ピアノが主体の静かな楽曲が増えました。毒気も含みつつ、熟成し、優しく穏やかに、沁み入るような哀愁のある音楽は、緊張した心を解きほぐしてくれます。

また、最近は老成したような楽曲性とセンスがある若いバンドやミュージシャンも増えてきていますね。RHYEなど、まだ若いと思いますが、最初に聴いた時は驚きました。今後も長い付き合いになるかもしれません。

『Push The Sky Away』Nick Cave & The Bad Seeds
『Push The Sky Away』Nick Cave & The Bad Seeds
1970年代後半から活動していて、荒々しい初期の時代の作品も好きなんですが、今は現在の成熟した哀愁ある作風が大好き。このアルバムの限定盤に付いたブックレットには、自身がタイプライターで歌詞を綴ったものが掲載されていて。そんな手作り感も気に入っています。
『Baltimore』Nina Simone
『Baltimore』Nina Simone
CMソングとして有名な「My Baby Just Cares For Me」(1958年)など、昔から一番大好きなジャズシンガー。 このアルバムは、彼女のキャリアの中でも唯一レゲエアレンジが施されているというのもあって、一番よく聴くアルバムになっていました。
『The Devil You Know』Rickie Lee Jones
『The Devil You Know』Rickie Lee Jones
ローリング・ストーンズやニール・ヤング、ザ・バンドなどの楽曲を、アコースティックで、シンプルなアレンジでカバーしているアルバム。タイトルやジャケット、歌い方など、どこか怨念がこもっているような気もしますが、哀愁と優しさもたっぷりです。
『Twin Peaks』Original Sound Track
『Twin Peaks』Original Sound Track
昨年、続編であるテレビドラマ『ツイン・ピークス THE RETURN』がオンエアされ、25年前のファーストシーズンの当時買ったCDをよく聴きました。アンジェロ・バダラメンティが手がけるスコアと、ジュリー・クルーズの声。このダークさと切なさは、ドラマ同様に中毒性あり。
『Below The Bassline』Ernest Ranglin
『Below The Bassline』Ernest Ranglin
一昨年惜しまれながらも現役を引退したジャマイカのギタリスト、アーネスト・ラングリンがレゲエの名曲を絶妙なアレンジで聴かせてくれる最高のジャマイカンジャズ・アルバム。これは気分転換プラス、お酒に合うかもしれません。特に「Congo Man」と「Surfin’」が好き。
『Moonlight』Original Sound Track
『Moonlight』Original Sound Track
先にサウンドトラックを聴いて気に入ったことで、映画もより深く観ることができました。ピアニストのニコラス・ブリテルの手がけたスコアは、どれも美しいんだけど、ストーリーを把握してから聴くと、本当に沁み入ってくる。自分自身のアルバム制作時、かなり影響を受けました。
『Blood』Rhye
『Blood』Rhye
デビュー作『Woman』(2013年)も大好きですが、今年発表されたこのセカンドも大好きです。ボーカルのマイク・ミロッシュのファルセットボイスだけでもずっと聴いてられそうですが、そこに絶妙に足される薄味なトラックメイクのセンスには脱帽させられます。
『Wind River』Original Sound Track
『Wind River』Original Sound Track
ニック・ケイヴは近年、バンドメンバーのウォーレン・エリスと共に映画のサウンドトラックも手がけています。これは今年公開され、話題になった作品。映画自体もとてもいいけど、楽曲も静寂感が強くていい。この2人が手がけたほかのサントラ作品も好みのものばかりです。
『Very Best of Nat King Cole』Nat King Cole
『Very Best of Nat King Cole』Nat King Cole
「Nature Boy」と「Mona Lisa」目当てで買ったベスト盤。こんなレジェンドのベスト盤だから当たり前といえば当たり前ですが、改めて聴いてみたら、とてつもない名曲揃い。このへんの古き良き音に浸るのも、気持ちが落ち着きます。そのまま寝落ちしたら、いい夢見られそう。
『Solo Piano III』Chilly Gonzales
『Solo Piano III』Chilly Gonzales
このシリーズは3枚ともすべて大好きで、楽譜も持ってます。どの曲も何かの映画の中で聴いたかも?と思うほど、聴き覚えがあるような、懐かしいような気がしてしまいます。タイトル通りのピアノのみのシンプルな優しい音なので、かけっ放しには最適かもしれません。