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ブレンドコーヒー論。焙煎家・オオヤミノル×〈COFFEE COUNTY〉ロースター・森 崇顕

食べて、飲んで、おいしいのだったらそれでいいじゃないか。そんな面倒な話や理屈っぽさは不要と考える人にとって、最も「面倒くさい」存在かもしれない焙煎家オオヤミノルが、なんとかウェーブと呼びようのないコーヒーのこれからを考えるために〈COFFEE COUNTY〉ロースター・森 崇顕と対話した。彼は自分の疑問を解決できるだろうか。

Photo: Keisuke Fukamizu / Text: Hitoshi Okamoto

いいものといいものを混ぜて
ブレンドのイメージを刷新する。

オオヤミノル

東京に住んでる俺の先輩が、森くんのブレンドを毎朝のように飲んでるって言ってたけど、最初からやってた?

森崇顕

お店の商品としてはブレンドって作ってないです。

オオヤ

なんで?スペシャルティコーヒーっていうのは産地をリスペクトする一つの運動だから?

もちろんそれがあるんですが、うちのお店のコンセプトは、現地に行きます、生産者から買います、その豆を焼いてお客さんに届けますということなんです。その流れの中で、この人のコーヒーとこの人のコーヒーを混ぜて、消費者からしたらよくわかんないものを提供するよりは、そこがクリアに見えるようにっていう考えのもとで、やってない。ただ、うちのコーヒーを使ってもらっているお店とかにはブレンドを作ってます。

僕は自分のお店でやってることがときどきわからなくなるんですよ。これ、仕事なの?僕がやりたいだけのことなの?って。いい豆を見つけてきて、それを焙煎して、これおいしいんですって伝えて、それで食ってるんですけど、ときどき「自分、大丈夫かな」とか、「誰かの役に立ってるのかな」と思う部分もあるんですね。で、そういう仕事で評価してもらうと、自分としては気持ちがいいというか、楽になる。

オオヤ

俺らのときはブレンドがほんとにくだらなかったんだよ、死ぬほど。前に俺が「ブレンドはぜんぜん意味がない」って言ったのはアンチテーゼもあるんだけど、前はいろんな店でブレンドが溢れてたのね。でも飲んでもまた飲みに行こうって思わなかった。

この豆、あんまり調子よくないからブレンドに混ぜちゃえという世界ってあったと思うし、僕も知っています。

オオヤ

俺も、ブレンドは実は意味があると思うんだよ。意味がないことはない。ただ、そんなに有効じゃないし、お客さんが安心するためのブレンドってそんな大事か?って思う。

提供する側からすると、いちばん楽にロスを少なくして、消費者もまあまあ納得して、歩留まりはめっちゃいい、みたいな話にすぐ戻ってっちゃう気がするのね。それが戻んない方が格好いいと思ってんの。ちょっとぐらい我慢してでも。でしょう?絶対格好いいもん。

オオヤミノル 森崇顕 コーヒー
オオヤミノル 森崇顕 コーヒー
マシンや焙煎法など微に入り細をって森さんを質問攻め。ちなみにオオヤさんはエスプレッソマシンのためのブレンドは必要と考えていて、〈カフェゲバ〉用には作っている。

より高いところを目指した
作る人の思想を乗せる。

シングルオリジンが普通になってきて、買い付けに行く人も増えてきている。それで、いい材料といい材料を使って、魂の入ったものを作りましょうよっていう、僕らは生産者が作ったものを、いまはフィルター的な役割でやってますけど、それはそれでやりつつ、もうちょっとプライベートなロットで、作品的なそういうものを作っていくロースターが今後は増えてくるんじゃないかなと思います。

いままでは足りないものを補うっていうか、足りないのが前提だったみたいなところからブレンドは始まってるから、悪いものも当然出てくるものだったけど、いいものといいものでできるんだったら、僕はそこに逆戻りする心配があるとはまったく考えていません。生産者が顔見知りだったりするわけだから、さらにそこに手を加えることへの畏れは、すごくありますよ。

ただ、それを越えたところにある世界にはすごく魅力を感じる。でも簡単ではないなとも思う。しかも中途半端な伝え方をしてしまったらよくないし、それこそやる意味がない。だから、それをしっかり伝えられる状況を作ってからやらないとダメだし、適当に作りましたじゃそれこそ後戻りになっちゃうから、後戻りしないためにどうやってやるか、ちゃんと考えないとならない。

そういう意味で言うと、クリスマスブレンドって作ったりとか、いま言ったような高みに行けるというコンセプトじゃないところでお客さんに伝わってしまうんですね。いい原料を使ってすごくおいしくしてるんだけど、その伝え方がまずくて、ただお客さんの購買欲とか、そういうものに合わせているだけになってしまう。

そこのところをもうちょっと削ぎ落として、ほんとにいいものといいものでもっといいところに行けるものを作る。そこに焙煎している人だったり、ブレンドしてる人の思想ものっけられるじゃないですか。そういうことをやりたい。お店をいっぱい出すという方向を目指すんじゃなくて、生き方っていうか、そういうところを伝えるのをやめてしまったらつまらないと思う。だから僕はやっぱり、オオヤさんに共感します。

オオヤ

森くん、俺に説教してるの?なんで後輩からロックンロールと初期衝動の話を聞かされないとダメなんだよー!

だから、それはオオヤさんが言いだしたようなことなんですよ!そうでしょう?

オオヤミノル 森崇顕 コーヒー
オオヤさんが「初めて彼のコーヒーを飲んだときからシンパシーを感じている」という森さんとの対話は熱を帯びすぎて、止まらない。