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レコードは淀みが魅力!?O.L.H.(Only Love Hurts)が、過去3枚のアルバムをアナログ化

CDから装いを新たにレコードとして、723日に発売される『Whydunit?』。2008年の制作当時、デジタル録音ながらも、可能な限りアナログな音質を追求して制作された作品だという。

photo: Katsumi Watanabe / text: Kenya Abe

故・吉本隆明氏をして「この人はうますぎるほどの物語詩の作り手だ」と言わしめた、目を背けたくなるほどリアルな情景描写の歌詞。歌謡曲の遺産を受け継いだメロディラインとファンキーなリズムから、日本が世界に誇るX-RATEDノーワル歌謡ファンクバンドと呼ばれるOnly Love HurtsことO.L.H.(旧名 面影ラッキーホール)。

7月23日に発売される『Whydunit?』(2008年)を皮切りに、過去の3作品のアナログレコード化が決定。発売レーベルであるP-VINEが運営する〈VINYL GOES AROUND PRESSING〉でプレスされる。

3作品とも、もともとCDで発売されていた作品だが、果たしてレコード化されると、音質などに大きな変化はあるのだろうか。テスト盤を聴いたボーカルと作詞を担当するaCKy(写真左)と、ベースと作曲を手がけるsinner-yang(写真右)に、その感想を聞いた。

aCKy(左)、sinner-yang(右)

sinner-yang

実は制作前の2008年ごろ、録音する直前にアラバマやメンフィスを放浪し、リズム&ブルースやソウルミュージック、そしてロックンロールなどの名曲の数々がレコーディングされた〈マッスル・ショールズ・サウンド・スタジオ〉や〈フェーム・スタジオ〉といった、アメリカ南部の名門スタジオを回ったんです。

その影響で『Whydunit?』の制作前には、頭の中で1970年代初頭のレコーディング方式。8トラックのマルチトラックを使い、オープンリールのテープに録音。可能ならば、レコードで発表したいと考えていました。

『Whydunit?』に続いてレコード化される『typical affair』(2011年)、『On The Border』(2012年)も、サウンドコンセプトは近いんです。もちろん、時代はデジタルレコーディングが当然ですから、アナログなんて恐ろしくコストがかかる。だから、デジタル技術を使い、可能な限り理想的な音質に仕立てて。出来上がりには満足しましたが、限界は感じていました。

aCKy

レコーディングしたマスター音源を、CDのときとはまた違う、レコード用の新しいマスタリングも施して。

sinner-yang

こちらで、楽曲ごとに完成版のマスターを入念に作り、全体の質感も揃っているものを、レコードの元になるラッカー盤を制作してくれる、カッティングエンジニアさんへお渡しました。

aCKy

出来上がってくるまで、期待と不安があって。

sinner-yang

こっちの準備は万全だけど、結局レコードは切って、完成してみなきゃわからない。映画と同じように、いいシーンが撮れても、フィルムをつないでみるまで、なんとも言えないというか。

修正がきかないから、結局は一発勝負のギャンブルに近い。デジタルに慣れ切っているから、簡単にやり直しができると思っちゃっているけど、レコードの場合は簡単にいかない。カッティングエンジニアさんにお任せしたら、もう賭けなんです。

ただ、今回は本当にうまくいったと思う。レコードを聴いてみて、『Whydunit?』はようやく理想の音質になったね。やっと「これがやりたかったんだよね!」というものが形になった。

aCKy

アナログ盤で聴けるのは、本当に嬉しいよね。

sinner-yang

冒頭の「あの男(ひと)は量が多かった」や「いっちまったら」など、CDで聴くと、歌とトラックの分離がハッキリしていますが、レコードだと両者が混ざっていて。サビのところが飽和して、ぐちゃっとなる感じに、グッときました。やっぱりデジタルでシミュレートしても、アナログで聴ける状態にはならなかったから。

淀みが魅力!?レコードの音質と、リスニングスタイル

sinner-yang

アナログレコードを作るとき、どうしても「音質を劣化させないためには、どうすればいいのか」という話になりますね。素材に対してアナログ的な処理をしていくわけですから、それを何度も繰り返すうちに、音がボケて、滲んで、悪くなっていく。その対策としてマスタリングやカッティングの段階から、音の劣化を見越して、ある部分の音質をあげて、シャリシャリにしておくとか。

aCKy

我々がデビューした時点で、すでにレコーディングスタジオに揃っていたのは、デジタルの機材でしたからね。

sinner-yang

しかし、リスナーとして、レコードの音に慣れているので、クリアな音に順応するまで、結構時間がかかった。デジタルで録音し、デジタルメディアで発売する商品は、いうまでもなく音質がすごくクリアです。ただ、その“クリアさ”というのは、人を寄せ付けないものもあって。

音楽には歪みや滲みなど、デジタルの時代に除外した成分がないと、逆に聴いていて辛くなってくるというのが、個人的な見解です。世の中も、今やコンプライアンスが重視され、ハラスメントや不倫もない、クリアな社会になりましたけど。

aCKy

果たして正解なのかどうかわかるのは、まだ先の話かもしれない。

sinner-yang

淀みのない世界なんて、生きづらい。みんなアナログレコードを聴いて不条理を学ぼう(笑)。

aCKy

確かに、A面からB面へひっくり返すとか、今では面倒なことではある。

sinner-yang

音楽は、ミュージシャンとリスナーが時間を共有する芸術。レコードを聴く行為というのも、違う場所だけど、双方が参加する儀式的な要素のひとつだと思う。

音楽家がレコーディングして、曲順まで決めたアルバムを、聴き手はジャケットからレコードを出して、盤面に針を置いて、再生する。そういう儀式が、アルバムを聴いていると、片面約20分に一度訪れるわけで。

CDやサブスクは、曲を飛ばしたり、曲順を変えることもできるので、時間芸術とは異なり、音楽を消費する側面が強くなってくる。

aCKy

遠回しに「レコードを買ってください!」ということですね。

sinner-yang

そうです(笑)。「あなたは消費者のままでいいんですか?」っていうね。ユーザーのままでもいいけど、レコードを買って聴くことで、音楽に参加して、初めてリスナーになれるんじゃないかと思っています。