エリイ
それよりもう『地面師たち』ですよ。何あれ。止まんなくてコンビニでイヤホン買っちゃったもん。
箭内道彦
ほんと最高でしたね。ドローンってこのドラマのためにあったのかと。
大根仁
ありがとうございます。この間、リリー・フランキーさんに銀座の高級クラブでお祝いしてもらったんですけど、回ってきた11人くらいの女の子たちが、ほぼ100%観てくれてましたね。
エリイ
私たち今回、個別じゃなく3人全員集まるのって、実は初めてですよね。
箭内
これって読者は、毎回一堂に会して悩みに答えてると思ってるのかな?
エリイ
たぶん、そうだと思います。
大根
この連載が始まった2013年頃、いきなりコラムバブルが来て、月に10本くらい書いてたんたけど、4~5年前から減り始めて最後に残ったのが、この「おなやみ相談室」。これにて連載コラム的なものが全部終了になるんですよね。
箭内
僕は連載開始前にはブルータスに時々出てたんだけど、始まってからは前の方の特集で取材してもらえなくなって、すごく扱いが粗末になった気がする(笑)。どうせ月2回も出てるからいいじゃんって?しかし、11年半ってね。
エリイ
何だろう。あっという間だよね。
大根
この11年半で、エリイは何がどう変わったの?俺と箭内さんは見た目もやってることも、そうそう変わってないと思うんだけど、エリイが一番、生活環境も見た目も変わったんじゃない?
エリイ
その頃の記憶とか壊滅した。コロナと出産で、脳細胞が全部消えたよね。あとは展覧会をやり続けてて今に至る、みたいな。見た目で言えば20年くらい金髪だったけど、伸びて黒髪になった。箭内さんの金髪がめちゃいいから、東京ならここ!って店を紹介してもらって。
箭内
そうそう、金髪がうまい美容師さんがいて。去年〈代官山UNIT〉で金髪の会を企画して、演者も金髪が集まったんだけど、みんな気が弱いのね。金髪は武装なんですよ。だから、エリイちゃんは黒くして何か晴れたんだと思います。
エリイ
私はずっと金髪がよかったんだけど美容院に座ってるのに耐えられなくて。立ち上がりたいし、叫びたいって感じで。年に2回も行けなくなって。
箭内
そういう人を、小さい連載によく11年半も閉じ込めてたと思うよ(笑)。
エリイ
でも箭内さんは結構、いつも真面目に連載の悩みと向き合ってましたね。
箭内
連載を始めた当初は、最初に読まれる1番バッターっていうのがすごく辛かったんですよ。はぐらかせないし、ちゃんと答えなきゃっていう、長男坊みたいな気持ちになってて。でも、よくよく考えてみたら2番、3番の2人とは代われそうにない。そう考えたら逆に、1番の並びにいる心地よさを感じ始めて、真面目に答えようと思って。ページの強さや面白さは、後の2人に任せればいいと思ったら、ものすごく楽しくなりました。
大根
別に3人で示し合わせたわけじゃないんだけど、なんとなく箭内さんがちゃんと答えてくれるから、エリイと俺は何でも大丈夫って流れができて。
箭内
自己犠牲じゃないけど、かといって2人のようなぶっ飛んだことは書けない。そのコンプレックスと毎回向き合っていましたね。またエリイちゃん思い切ったこと書いてるな、大根さんも面白いな、僕はダメだなっていうのを11年半も感じてた。連載終了の寂しさとともに、ようやくそこからも解放されます(笑)。
大根
俺たちみたいなのの刀のさやの役割をずっと担ってくれていたんですね。
箭内
でもね、業界でもこの連載はすごく人気で。それこそ福山雅治さんなんかも毎回読んでますよって言ってくれてました。ちょうど読みやすいんだよね。
エリイ
ただ、一回も真剣に答えたことなかったなー。
箭内
少し前、誰かの電話番号を載せてたでしょ。あれはあれで、ある意味、真剣に向き合ってるなと思ったけど(笑)。
エリイ
そうだ。番号を載せた友達に、電話がかかってきたか聞かないと(笑)。
箭内
品のいい読者が集まる場所でやってるから、そういうのも成立するのかもね。だってブルータスって基本、下ネタとかも扱わないじゃないですか。この連載だけですよ、それが解禁されてるの。
大根
(過去連載を見ながら)最初の頃のエリイの原稿、短っ!6行しかないよ。これで同じ原稿料って(笑)。
エリイ
始めた当初はガラケーだったから、長さがよくわかんなくて。ある日、短くない?って気づいて。約242文字っていう情報をゲットしてから、ぴったりの長さで送るようになった。当時は文字数の数え方がわかんないから、Twitterに打ち込んで数えたりして。
箭内
エリイちゃんはこれ、ずーっとやってきて、嫌なわけではなかったの?
エリイ
〆切に追われるとか多少はあったけど、242文字ってノーストレスじゃないですか?2週間経つの早いなーみたいな、羅針盤でしたよね。逆に、定期的に必ず〆切があるっていう安定感がありました。お2人はどうですか?
大根
俺もストレスはなかったかな。書いたそばから内容も忘れていって、今や一つも覚えてないし(笑)。
エリイ
無ですね。渾身の、とかいうこともなく、11年半ダラダラ続けるって、パチンコの玉が止まらず進むような、野に放たれて無!みたいな感じなんですよね。そんなことってほかにある?
箭内
確かにないよね。
大根
取ってつけたように言うみたいだけど、無責任であることに責任を持つ、という感じでやっていました。
エリイ
あの回は印象的だった、とか、これすごくない⁉みたいな回もないし。
箭内
覚えてないから、似たような答えを繰り返してたこともあるよね。どうせ悩みを聞いてもらう側も期待していないでしょ。上野千鶴子さんとか加藤諦三さんとかだったら答えをもらいたいけど。
大根
たまにガチな相談が来た時、こういうの答えにくくて困るって、メールしたりしましたね。たまに辛辣なことを書いた時は、近しい人だったら申し訳ないなと思ったり。でも、そもそも誰なんだ、この相談してくるやつ、っていう。
———暇さえあれば周りの人に悩みを聞きまくり、メール投稿を採用したり、匿名以外に連載陣の悩みに答えたシーズンもありました。今日来てくれたイラスト担当の死後くんの悩みを解決したことも。
死後くん
女性のスカートからパンティがうっすら透けてるのを気づかせる良い方法はありますか、みたいな悩みでした。
大根
ぜんぜん覚えてないなー。(その回を見て)このエリイひどいぞ。「透けパンを気づかせるには、ナンパをしてホテルや家に行きパンツそのものを脱がせてしまえば、そもそも透けるパンツがないので万事はオッケーです!」って(笑)。これ俺が書いてたら完全にアウトだけど、エリイだからギリギリだね。
エリイ
ひどい。でもまあ、真実ではある。ホントの〆切が今って時、横にいるミラクルひかるに「これどう思う?」って聞いて「……と、横にいるミラクルが言ってます」って、そのまま送るというのも2~3回はやってました。
箭内
書き方やトーンは違うんだけど、3人が全く同じ答えをしている回もあって。もちろん違うのもいいんだけど、たまに、あ、大根さんと一緒だ!みたいなことがすごく嬉しくて。僕のところに校正確認が来る時って、だいたい2人の原稿は〆切が守られてなくて空欄で、雑誌を開いて初めて内容を知るんだけど。
大根
俺に校正が送られてくる時は、エリイのところだけがいつも空欄だった。その順番は最後まで守られてたね。
エリイ
私のところには校正が送られてきたことは一度もなくて、ショートメールで242文字を送ってそこで終わり!
箭内
しかし、悩みって何ですかねー。
エリイ
ねー。でも、やっぱり環境ですよね。私、中学生くらいからずっと朝起きられなくて。それが超ツラかったけど、もはや大人になってしまえば朝起きなくていいから、仕事も会議も全部17時以降にスタートして夜中までやって、その時は全然悩んでなかった。また今、子供が生まれて朝起きなきゃいけなくなって、その悩みが戻ってきてたりもするけど。
大根
確かに、悩みって環境から生まれるのはありますね。ちなみに、何か悩みがあった時、誰かに相談ってします?
箭内
しないですね。
大根
俺もしたことないですね。
エリイ
起きれない!とは言うけど、言っても誰も解決できないからね。
箭内
そういう前提があるから、人に相談しても仕方ないってなっちゃいますね。
エリイ
超ヤバいことが起きた時は?
大根
それでもしないなぁ。仕事でもプライベートでも、いくつかの選択肢が目の前に並ぶことはあるかもしれないけど。
箭内
連載していて思ったのは、悩みとどう共存していくかということなんじゃないかということ。悩み自体は解決しないんだけど、悩んでいない状態になっていく、みたいなことなのかなーと思う。
エリイ
箭内さんが人に言えない悩みって、何ですか?
箭内
それは言えないですよ(笑)。あるけど絶対言わないです。
エリイ
え、ジャンルだけでも知りたい!朝起きて頭から離れない悩みみたいな感じ?
箭内
そんなものでもなくて、時々思い出すのをなるべく忘れて暮らそうみたいな……。
エリイ
好きな子が突然いなくなったとか?
箭内
違う違う。もう聞かないで!(笑)
大根
(笑)。
箭内
僕は父親が30年前ほど前に借金を抱えて死んで、そのお金を返したんですよ。だから、それから父親が今の自分を助けてくれて、悩みや悪いことがあっても、さらに最悪の事態があるのを防いでくれてると考えて、何でも大丈夫になりました。
大根
塞翁が馬ですよね。それは常に基本的な考え方として自分にもありますね。
エリイ
私もそう思うようにしてる。ていうか、そうしないと起きられない。ツラすぎて乗り越えられない。
箭内
大根さんは『地面師たち』を経て、これからどうなっていくんですか?何か目標みたいなのってあるんですか?
大根
ないんですよね。クリエイターとしての意識がホントなくて。自分が観たいものを視聴者として作っている感じで。
エリイ
大根さん淡々としてるもんなー。
大根
あ、でも、そういう悩みはあるかもな。これからどうしようっていう。
エリイ
私はほんと生きるのみ!