監督・脚本・編集を自ら務め、さらなる奇抜へ
オダギリジョーが演出などを担うだけでなく、着ぐるみの警察犬にも扮したドラマ『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』が自身の手で映画化された。ここには1990年代〜2000年代初頭のアート系映画に見られた、奔放なエネルギーがみなぎっている。
人気ドラマの映画化といえば、広範な観客動員を狙って作られるものだが、「ビジネスのことはまったく考えなかった」と言い切る。熱烈な支持に加え、高い評価も得た異色ドラマの劇場版『THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE』は、ドラマよりさらに奇抜で、オダギリジョーの個性が色濃い。
「監督・脚本・編集と、作品にあらゆる責任を持つ立場だったからこそ、世間に媚びるような作品にしたくなかったし、恥ずかしいものは出せなかったんです。ただ、こだわればこだわるほど、予算を大幅に超えてしまいました(涙)」

笑いと不条理が渦巻く、自由で型破りで摩訶不思議な映画
「やっぱりその頃の映画に育ててもらったと思うんです、一人の映画ファンとしても、俳優としても」と彼は言う。「だから自分が映画を作るときには、美意識として残っているものが溢れてしまうんじゃないですか。この作品では“映画”の良さを感じてもらいたかったんです。映画は映画館という何にも邪魔されない空間で作品の世界に浸かれる、特別な体験ですよね。
今回は映画館の環境、特に音響を最大限に生かすように設計しているので、家のテレビやPCなど、劇場以外の場所で観ると自分が意図したことの半分も伝わらないはずだし、きっと面白くないと思います。劇場で特別な体験をしてほしいですね」

行方不明の男を捜索するうち、奇妙な世界に通じるドアが次々に開いてしまう、そんな摩訶不思議なストーリーの起点となったのは、「もしかすると世の中はいくつもの層でできているのかもしれない」という着眼。『ある船頭の話』に続く長編監督2作目を完成させた今、彼は監督に求められるものと、俳優に求められるものの違いを実感している。
「監督に必要なのは周囲に愛される力ですよね。鈴木清順監督をはじめ、僕が仕事をしてきた監督たちは、この人のために身を削ろうと周囲が思えるような魅力を備えていました。僕も監督としては、スタッフやキャスト一人一人と、ものすごく謙虚に、丁寧に接しています。俳優として演技を追求するときの横暴さはまったくない(笑)。逆にみんなに気を使いすぎるのが、自分の欠点かもしれません。意外と気が小さいんでしょうね(笑)」
監督・脚本・編集・出演:オダギリジョー/出演:池松壮亮、深津絵里ほか/池松扮する県警のハンドラー・一平と、彼には着ぐるみのおじさんにしか見えない警察犬・オリバーが事件に挑む。9月26日、全国公開。