「壊れない?」「メンテナンスは?」クルマにどっぷりな目利きに聞く、古いクルマの選び方

ここ最近、「ネオクラシック」や「ヤングタイマー」と呼ばれる1990年代前後のちょっとレトロな日本車人気も相まって、俄然気になる古いクルマたち。とはいえ、「壊れたりしない?」「メンテナンスは?」「どれを買うべき?」などなど、疑問がどんどん湧いて、なかなか手を出せない未知なる領域。仕事も愛車も古いクルマにどっぷりな目利き2人に、実際のところを尋ねた。

text: Takeshi Sato / edit: Junya Hirokawa

教えてくれた人:
西村泰宏(『カーセンサー』統括編集長)
神保匠吾(「DRIVETHRU」ディレクター)

西村泰宏

テーマが「古いクルマの選び方」とのことですが、まず、そこまで古くない、単に「中古車」と呼ばれるクルマと、例えば2000年以前に生産されたような、趣味性が高い「旧車」の2種類に分けて話を進めたいところです。

神保匠吾

古いクルマを買う場合、値段と走行距離を見るのは基本ですが、中古車と旧車に同じアプローチをすると危険ですね。

西村

走行距離が3万㎞のクルマより、コンスタントに乗り続けた10万㎞のクルマの方が程度がいい場合もありますね。もし単に中古車を買いたいだけなら、詳しくない人が実車確認しても、整備記録簿を見ても、状態の良し悪しはわかりにくい。認定中古車や第三者機関の評価の利用がオススメです。その場合、実車を確認することなくネットで買っても、そこまでの失敗はないと思います。

神保

対して、趣味の旧車を買うなら、実車確認は必須ですね。自分の目で見て、「ボロいけどこれなら直せそう」とか、「車内の臭いが気になるから無理」とか、情報だけではわからないフィーリングが重要。価格や走行距離、画像をいくら眺めても、旧車の実際のところは1ミリもわかりません。

西村

旧車は、「クルマ」はもちろん、「販売店」や「人」にピンとくるかも大切です。店に行って、油まみれのツナギを着たおっちゃんが出てきた時に、その人が頼れそうか、気軽に相談できそうか見極める必要があります。

神保

自分の目で判断できるようになるには、壊れたらどうしようと心配しすぎるのではなく、一歩踏み出す勇気も欠かせません。

西村

人間だって明日風邪をひくかもしれないわけで、旧車の未来を予測するのはとても難しい。買う前に、主治医となる販売店や整備店を見つけておきたいですね。都市部在住なら見つけやすいはずで、僕も買ったのは東大阪で、修理は横浜です。部品がなければ東大阪から送ってもらったりワンオフで作ってもらったりします。

神保

地方に納車した場合など、その後問題があればパーツだけ送って、対応可能な現地の店や人を探してもらうこともあります。

選ぶなら国産よりも輸入車。パーツが手に入るかが重要

西村

エントリーモデルとして海外の旧車が欲しいなら、世界的に売れた、台数が多く出たモデルを選ぶこと。例えば「ゴルフ2」は、サードパーティのパーツが数多く流通しています。初代「ミニ」や初代「ビートル」、ボルボ「240」あたりも、長期間同じパーツを使っているためパーツが手に入りやすい。

反対に国産の旧車はパーツの流通が限定され、維持のハードルが上がります。ネットで検索しても数台しかヒットしない旧車であれば、部品が見つからなかったり、あっても高かったり、車両を手に入れられたとしても、その後、手間がかかるでしょうね。

神保

国産の旧車なら、販売やメンテナンスを手がける専門店にアプローチするのが近道ですね。例えば、いすゞの旧車を専門に扱う〈イスズスポーツ〉や、埼玉にある〈ガレージサイコー〉は昭和のホンダ車の修理の専門店です。

西村

いくら安くても相場から外れている場合には理由があるはずで、とりあえずお店の人に理由を聞いてみることですね。すると、「下取りで入ったから」「早く売っちゃいたいから」とか、ちゃんと教えてくれます。

神保

安い場合、「ウチだとメンテナンスできないから」という理由が多いですね。ヤフオクに出品されている旧車が安いのは売りっぱなしだから。初心者は、ネットやヤフオクで見つけたクルマをいきなり買うのは絶対にやめた方がいいと思います。

西村

いつの間にか、「旧車=大変」という話になってきましたが、ポジティブな面を知ると買いやすくなります。とりあえず、旧車に乗っているだけで、どこかを走っていても、SNSでも、めちゃくちゃ声をかけられるようになります。「私も欲しい」とか、「僕も乗っていた」とか、クルマを起点に新しいコミュニケーションが生まれるのは楽しいものです。

神保

今日はコンディションがいいなとか、旧車自体とのコミュニケーションも楽しいですね。

西村

手に入れることだけをゴールにするのではなく、自分が気に入るクルマを探して、出会って、買って、所有するという流れをトータルで捉えられるといいですね。旅行ついでに、知らない町までクルマを見に行ってみるとか。

神保

古いクルマは買うこと全体がエンタメ。選び方、楽しみ方に正解はありません。だからこそ、楽しもうという姿勢が大切です。

古いクルマを選ぶ前に知っておきたいこと

使いこなしたいサービスは?

神保さんのオススメは、「任意保険のロードサービス特約を付けること。故障して動かなくなっても無料でピックアップに来てくれて、帰りのタクシー代やホテル代も負担してくれます」。一方西村さんは「JAFには足を向けて寝られない」とか。「都市部ならすぐに駆けつけてくれて、スマートフォンのアプリで“あと何分で到着”とリアルタイムにわかって安心です」。さらに、シェアカーと組み合わせるという、無理のない旧車の運用方法も提案。

1.ロードサービス特約付きの任意保険に。

突然の故障やバッテリー上がりだけでなく、事故の時にも心強いのが保険会社の任意保険。ただしロードサービスは「ガス欠対応は1回まで」など、保険会社によって内容が異なる。JAFには任意保険加入者の優遇サービスもあるので、両方加入するのもあり。

2.年6,000円で入会できるJAFに入る。

個人会員は「入会金+年会費」で年6,000円。牽引料は会員なら20㎞まで無料、非会員は27,700円〜+1㎞当たり830円かかる。複数台を所有している場合やレンタカーなど自分のクルマ以外でも、あらゆる車両が適応対象になるのがメリット。

JAFスマートフォンアプリ
GPSで現在地を特定し、ロードサービスを要請できる「JAFスマートフォンアプリ」。スマートフォンを会員証として使用できる。

3.シェアカー、レンタカーと組み合わせ。

古いクルマ1台ですべてをこなそうとすると無理が生じるもの。例えばコストコに行くのはシェアカーで、真夏の酷暑はレンタカーで出かけるなど、用途に合わせて組み合わせることで上手に使いこなしたい。シェアカーの相場は、6時間5,000円程度。

旧車の専門店をチェック

旧車の専門店といっても、実にさまざまなショップが存在する。例えば、ホンダ車の専門店でも、「VTECエンジン専門店」や「『ビート』だけを扱う専門店」など細分化。気になる販売店や整備店があれば、ウェブサイトを眺めて車種や開催しているイベントを確認し、自分の趣味と合いそうかをチェック。ボディはこの店、エンジンはこの店といった具合に、メンテナンス先を分ける達人もいるとか。専門店探しが、安心して旧車に乗るための第一歩。

いすゞの旧車専門店 イスズスポーツ(東京都羽村市)

昭和のホンダ旧車 お助けショップガレージサイコー(埼玉県さいたま市)

日産「ラシーン」専門店 ブルーム(神奈川県横浜市)

80~90年代のクルマ専門店 マルミオート(埼玉県入間郡)

クラシック「ミニ」専門店 ガレージモーリス(東京都目黒区)

VW「ゴルフ2」専門店 スピニングガレージ(神奈川県相模原市)

今、選ぶべき古いクルマは?

「結局のところ何を選べばいいの?」と思って2人に聞くと、西村さんの答えはポルシェの初代「ボクスター」。「デビュー当時、ヨーロッパで一番耐久性が高いエンジンにも選ばれた名車。市場価格は170万円前後でパーツも充実。実は僕も乗っていました」とのこと。神保さんの推しは、2000年代の日産の2代目「キューブ」。「和モダンなデザイン。古くない分パーツは豊富で、旧車と中古車の中間のような位置づけ。30万円程度という価格帯も魅力的です」