奥山由之が監督を務め、高畑充希が出演する映画『秒速5センチメートル』は、1991年に出会い、心を通わせた少年と少女のその後を辿る物語。失われた恋を歌う「One more time, One more chance」は、本作の劇中歌であり、また原作のアニメーションを象徴するようなラブソングだが──。
監督:奥山由之/出演:松村北斗、高畑充希/2007年に劇場公開された新海誠のアニメーションを実写化。東京の小学校で出会った貴樹と明里の、18年にわたる運命の物語を描く。主題歌は米津玄師「1991」。全国公開中。
奥山由之
3話の短編で構成される原作のうち、第3話のほとんどが「One more time, One more chance」とともに描かれていて、その歌詞に物語が託されています。そんなことができたのは、誰しもに深く、しっかりと伝わる、普遍的な力が楽曲にあったからですよね。あの曲が、主人公・貴樹の半生を描く物語と、観客をつなぐ懸け橋になっていた。
高畑充希
曲の存在感はすごくあるのに、それでいてセリフみたいに物語に馴染んでいる印象もあります。実は以前、歌番組でカバーさせていただく機会があったんですね。いざ歌ってみると、センチメンタルな曲というイメージとは違い、とても力強いなって。喪失感よりも、その先の求める力が強い曲だと思いました。
奥山
米津玄師さんによる本作の主題歌「1991」では、貴樹の半生と米津さん自身の半生が歌詞に重ねられています。それだけの思いを込めて、曲を作ってもらえたのは光栄なことだなと。
ジャンルに収まらない曲で、単に哀感を表現するだけでなく、いきなり異質な音が入ってくるとか、相反するものが混在している。だから作品を観たあと、物語をあるジャンルに収めず、さらに拡張してくれるような気がしました。余韻と広がりのある曲だなって。
高畑
確かにそうかもしれませんね。淡々とした冷たさとにじみ出る情熱が、ずっと絶妙なラインで走っている曲だなと思います。
以前から交友のある奥山さんと米津さんの絆を感じたのも、私はエモいと思ったし、91年は私たち3人の生まれた年なんです。いままで同い年のクリエイターさんが少なくて、ちょっと寂しかったから、「1991」を聴いて91年生まれが誇らしくなりました(笑)。
強く印象に残っている映画の中のラブソングは?
奥山
『ジョゼと虎と魚たち』のサウンドトラックはくるりが制作しているのですが、その中に、「別れ」という曲があるんです。劇伴なので歌詞はないんですけど、メロディラインの切なさだけで、多くの人が共有できる別れの情景を描き出している。
あと『her/世界でひとつの彼女』の主題歌だったカレン・Oの「The Moon Song」が好きです。曲として大好きだし、恋愛映画と言ってすぐに思い浮かぶ作品の一つが『her』なんですよね。
高畑
私は近々に観た『カラオケ行こ!』で主人公が歌うX JAPANの「紅」。「紅」をラブソングとして捉えたことがなかったんですけど、あんなふうに絶叫されると切なく聞こえるんだなって(笑)。
奥山
心に残るラブソングは、たった一人に向けて書かれていたり、歌われたりする曲なんでしょうね。湖に小石をバラバラと投げ込むより、一ヵ所に向かって投げ込む方が波紋は遠くまで広がる、そんなイメージがあるんです。それはラブソングに限らず、どんな創作にも言えることだと思います。
高畑
ただ、これまで意識的にラブソングを聴いたことがなくて、ラブソングを聴きながら、自分の恋愛と重ね合わせて泣くみたいな経験がないんです。どうしてこんなにキュンと密接じゃない人生を送ってきたんだろう?(笑)
奥山
『秒速5センチメートル』は、恋愛のカタルシスみたいなものにも触れているけど、むしろもっと広いことを描く作品にしたいと思っていました。
高畑
恋愛がテーマではあるけど、人それぞれに異なる人生の進み方の話ですよね。だからこそ観る人が自分と重ね合わせることができるんじゃないかと思います。

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