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沖縄南部の離島・奥武島で出会う、おやつの天ぷらと猫、おじいのゆんたく

沖縄本島の南部で観光といえば、ひめゆりの塔や平和祈念公園、斎場御嶽などが有名。でも、知らなければ通り過ぎてしまう離れ小島「奥武島」にも、ちょっと寄り道してほしい。きっと時間の流れに癒やされるはずだから。

photo: Kenji Haruta / text: Rio Yamamoto

外周わずか1.7km。
車で渡れる離島、奥武島

「奥武島」と言われても、沖縄に馴染みのない方は読み方がわからない方も多いのではないだろうか。「奥武島」と書いて「おうじま」と読む。ここは那覇空港から車を30分ほど走らせた南城市にある離島。

沖縄・奥武島
中央に見えるのが奥武島。橋を渡りながら眺める海の鮮やかさは格別。

都会的なビルが並ぶ那覇市内からの道中は、だんだんと景色が変わってくる。コンクリート造りの平たい屋根の住宅が増えていき、ところどころにバナナが実る木々が見えたり、さとうきび畑が見えてくると、南の島に来たという実感がさらに湧いてくる。

331号線を走っているうちに、標識に奥武島の文字。右折しくねくね道を下っていくと、突然視界が開け、橋が見えた。思いのほか、島が近くに見える。思わず「うわぁ」と声が出てしまうほど、エメラルド色が鮮やかな海。心なしか、木々の緑の見え方も色濃く感じられる。車で渡ればものの数秒だが、そんな短い橋の先には、離島らしい別世界の景色が広がっていた。

橋の中央には健康的に日焼けした少年たちが何人か集まっている。眺めていると、高さ10mはあろうかという橋の欄干から海に飛び込んだ!思わず覗き込むと、飛び込んだ先のビーチでは小さい子供たちから大人まで、のどかに海水浴を楽しんでいる。

海水浴だけでなく、釣り竿を背負って自転車を漕ぐ少年たちも通り過ぎていった。ちょうどこの取材中、沖縄では「かたぶい」と呼ばれるスコールのような夕立に遭ったのだが、彼らは気にもとめず、着ているTシャツまで全身びしょ濡れのまま。「クラゲに刺されに行こうぜ!」と冗談めかして声を掛け、誘い合いながら海へ遊びに行く子供たちもいた。これが彼らにとっての、日常の遊びなのだろう。

奥武島といえば、名物の天ぷら

奥武島で一番の目当てにしていたのが天ぷら。島内には3軒の天ぷら屋さんがある。訪れたのは〈大城てんぷら店〉。まずは店の軒先で注文用紙に天ぷらの種類と個数を書き込む。一番上には「さかな」とだけシンプルに書いてある。一体なんの魚なんだろう?「田うむにー」というメニューも気になる。隣の人に聞くと、田芋と紅芋をミックスしたものらしい。もずくやアーサなど、沖縄らしい海藻の名も連なっている。どの天ぷらも1つ100円。わからないものもありながら、注文と自分の名前を書き込んだ紙をレジに持っていった。

待っている間に自販機で飲み物を買う。さんぴん茶や島コーラなど、ついつい珍しいものを買いたくなってしまう。そうこうしていると名前を呼ばれ、ラフに紙袋に入れられた天ぷらを受け取る。木陰のベンチや、隣のパーラーと共同で使えるテラス席に座って食べることに。あちこちに佇む猫たちの完全に油断しきった寝姿を見ると、こちらまで気が緩んでくる。

天ぷらの衣は分厚く、一般的な天ぷらとアメリカンドッグの皮の中間という感じ。腹持ちが良いので、沖縄ではおやつとして天ぷらが食べられているというのも頷ける。そういえば沖縄名物の揚げドーナツ「さーたーあんだぎー」も、由来は「さーたー(=砂糖)を、あんだぎー(=油で揚げたもの)」という意味だと聞いた。揚げ物文化が根付いているのが、いかにも南国らしいだろうか。

沖縄〈大城てんぷら店〉の天ぷら
〈大城てんぷら店〉の天ぷら。(1)もずく、(2)紅芋、(3)ゴーヤー、(4)ソーセージ、(5)カニカマチーズ。

気になる天ぷらの中身だが「さかな」はふんわりとした白身魚だった。「田うむにー」はパスして注文した紅芋は甘さたっぷり。あつあつのカニカマの天ぷらには、とろりとチーズが溶けている。そしてウインナーが意外とウマい!ゴーヤーは白いワタが残っており、しっかり苦くて夏らしさを感じられた。そして、沖縄といえばのもずく。衣が厚い割に、比較的さっぱりした食感が印象的。何より揚げたてというのが最高だ。

行列に並んでいたのは観光客ばかりではなかったようで、次々に呼ばれる名前を聞いていると、「比嘉さん」「安里さん」など、どうやら沖縄県内の人も多いよう。本場の沖縄の楽しみ方を味わえた気がする。

朝から泡盛を飲んでいるおじいと「ゆんたく」

その他の天ぷら屋さんを眺めながら歩いていると、たくさんのイカが干してあった。このあたりは「トビイカ」という種類が獲れるらしく、たしかに鮮魚店にも刺身が置いてあった。

イカ干し場の横では、地元のおじいちゃんが3人、ラジオを聴きながら飲んでいる。沖縄には「ゆんたく」という言葉があり、いわゆる井戸端会議のように、約束せずとも集まっておしゃべりをする習慣が深く浸透している。おじい3人の横には「奥武島」の文字が入った立派な木製の船が並んでいる。

大きな声で挨拶をして、船について尋ねてみると、「まぁ〜いいから座りなさい」「なんくるないさァ」と椅子を勧められるまま、取材班もゆんたくに参加することに。座れば船についていろいろと教えてくれる。これはハーリー(奥武島ではハーレーと呼んでいた)という沖縄の伝統的な船のレースで使うとのこと。この船の作り手ということで、ここで朝から泡盛を飲んでいるとのことだった。

聞き入っているうちに、ひとりのおじいが、自販機でペットボトルのお茶を買ってきてくれる。まだこちらは名乗ってもいないのに、「これもよかったら食べて」と先ほど鮮魚店で見たトビイカの刺身を出してくれる。新鮮でとろりとしたイカと酢味噌が合って、とてもおいしい。これは確かに泡盛にも合うだろう。

テーブルの上には、おじいたちが朝から飲んでいた泡盛の、空になったチルドカップやオリオンビールの缶。私たちが帰る頃には、さらに2人のおじいが集まってきた。中には90代後半を迎える元気な人も。このリラックスした関係性が、いつでもここにあるという生活の豊かさに思いを馳せる。

地元ならではの海の楽しみ方、ここでしか味わえない天ぷら、そして思いがけず「ゆんたく」に混ぜてもらえる社交的な雰囲気。奥武島は小さな島ではあるけれど、のんびりゆったりとした島の暮らしを凝縮して味わえる場所だった。