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妄想お買い物バトルを漫画でお届け。殺し文句にダマされない!? 平凡明星 編

店員の巧みな言葉にからめ捕られまんまと買ってしまった経験がある人も多いはずだ。昭和な漫画でお届けするのは客と店員との妄想お買い物バトル。店員が繰り出すキラーフレーズ、行動の裏側。客の心をキャッチする秘められたテクニックの数々を専門家が心理学的に解説する。結局、上手な店員さんには負けちゃうんですけどね。

漫画: 師岡とおる(more rock art all) / 解説: 塚越友子

セレクトショップを
ふらっと覗いた

平凡明星 さまの場合

30歳・会社員。年収350万円。ファッションにはそこまで詳しくなく、こだわりも特になし。服にかける金額も少なめだが、買い物自体は嫌いじゃない。友達との飲み会までの時間つぶしをしようと、駅ビルの中にあるセレクトショップをふらりと訪れた。

ファッションに疎い人は、
“みんなと同じ”に弱かった。

「基本的に客は、“買わされたらどうしよう……”と、初対面の店員を警戒するもの。そのため、いきなりグイグイ距離を縮められると逃げたくなります。それを防ぐために上手な店員は(1)のように最初は距離を取り、徐々に詰めることで警戒心を解いていくのです」。ファーストコンタクトのセリフも重要だ。「客が“自分もそう思っていた”と共感できる(2)の“○○じゃないですか?”というセリフをかけることで、“店員も自分と同じ感覚の人間だ”と、心の距離がグッと縮まります。また、“私はあなたの味方ですよ”と感じさせる、心理学用語でいうペーシング効果も働いていますね」。

打ち解け始めたところで、次は客へのリサーチがスタート。「(3)の“ダークカラーがお好きなら”というセリフは、エサ撒きの典型例。平凡も、まんまと“黒はたくさん持っていまして……”と答えており、好みのヒントを与えています。ほかにも、“そのスニーカーカッコいいですね”など客のファッションを褒めることも、リサーチの一つ。“この色が気に入ってるんです”などと答えたら、店員側はしめたものです。

また(3)のセリフは、“〜なら〜が今イチオシです”というところにもポイントが。暗に、“暗い色が好きな人はみんなこのアイテムが好き”などと今の流行を伝えることで、自信のない平凡は“みんなと一緒だから大丈夫”と安心感を得ます。目的のない買い物の時、人は“失敗したくない”という思いが強く働くので効果は絶大」。

そして、塚越先生が一連の流れでいちばんのキラーテクと話すのが(4)のセリフだ。「本人が気づいていない魅力を伝えることで、客の心のなかにある新しい窓が開きます。この瞬間から“自分のいいところを教えてくれる人だ”と、店員への信頼が芽生えます。こうなれば、店員側は購入までの導線を作るのが簡単になる。購入させるための鉄板3ステップは、“見て、触らせて、着させること”といわれ、試着という壁を越えられれば、店員のゴールは近くなります。

ちなみに平凡が“僕、試着すると買っちゃう人なんで”と、警戒し試着を避けようと発したセリフは、逆効果。これは相手に“試着したら買う”と答えを教えているようなもの。それに気づいた店員は(5)のように試着をするよう畳み掛けます。

人は具体的にすべき理由を持って説得されると弱いんですよ。また、(6)には、心理学でいうドア・イン・ザ・フェイスという方法が使われています。これは、最初に大きな頼み事をして一度断らせてから、少し小さな頼み事を承諾してもらう技。最初に試着を勧められた時に平凡は、“いやいや”と断っています。そのうえで店員は(6)のように“買わなくてもいいから着てみて”と譲歩していますよね。すると平凡は一度断っているがゆえに断りづらくなってしまうんですよ」。

ついに、試着をした平凡だが、少し困惑した様子。それに気づいた店員が発したのが(7)のセリフ。「気になるポイントを聞くことで、その人が購入を踏み切れずにいる原因が判明します。つまり、そこを解決してあげれば、より購入へと近づく。平凡は、“どんなアイテムに合わせればいいのかワカラン”と答えているので、店員は(8)のように提案。コーディネートを具体的にイメージさせることで、客は買った際のいい未来を想像し、すべてを手に入れたいと思い始める」。

最後のダメ押しは、たまたま通りかかった女性店員の一言(9)。「人はさりげない感想風の押しに弱い。“第三者から見ても素敵なんだ”と思えたことで、平凡は納得して購入したのでしょう。女性店員の行動も最初から仕込まれていたのかもしれませんが」