1年ほど前、“コンセプトを決めない”という方針でプロジェクトを立ち上げたのは、クリエイティブチーム〈301〉の大谷省悟さん。
「最初に全体のコンセプトを決め、それを基に空間をチームに割り振っていくのが通常のやり方だと思いますが、その流れだとコンセプト大喜利的になり、プレーヤーが自由に考えることを制限してしまう。まずはプロジェクトに関わる全員がどんな場所にしたいか、どういう人たちがこの建物に集まってくるのがいいか、というような抽象的な事柄をやりとりしながら、人を主体とした関係性を築いていく。戦略を立てずに、誰がどういうふうにその熱量に巻き込まれていくのかをデザインしていくような感覚ですね。複合的なコミュニティというのは、建物や街というスケールと、人との関わり、その延長線上に立ち上がっていくものだという考え方を起点にしています」
担当者もフロアや機能で分けず、全体について全員で議論し、共有しながら進めることで、一つの施設として理想的なコミュニティを立ち上げられるのではないかと考えた。第一に、1階にパワーのある飲食店を入れること、そこを街とつながる入口にして、さらに人と人とが縦に交ざり合っていく仕組みをどのように作るか。
当初20人ほどでプランが白紙の状態から話し合いを始め、プロジェクトを進めるうちにローカルなカルチャーを担う人たちも巻き込みながら、街に独自の施設として成長させていったという。結果、約50年前の空間に2023年の要素を上書きしたようなデザインにも、コンセプト主導でないからこその予期しないアイデアが取り入れられた。
「同時期に同じ方法で手がけた代々木上原の〈CABO〉は、洗練された街のイメージに馴染むものになりましたが、それと比べて〈大橋会館〉は、様々な個性が混じり合って融合したような、ミックスカルチャーのある池尻らしいアウトプットになったと思います。
どちらもローカルのチームを巻き込んだことが、街らしさを反映する鍵を握った部分はありますね。今後ほかのプロジェクトでも、こうした複合施設の立ち上がり方が参照され、それぞれの街にポジティブな影響を与えられたらと考えています」
〈大橋会館〉はいかにして生まれたのか?仕掛け人に聞く、コンセプトを決めないプロジェクトのつくり方
2023年8月、企業の研修施設をリノベーションしてオープンした池尻大橋の〈大橋会館〉。飲食空間、シェアオフィス、ホテルなどが融合したいわゆる複合施設だが、その作り方はありきたりでない。仕掛け人に話を聞いた。
photo: Naoto Date / text: Asuka Ochi