ファンタジーと時代考証の間で生まれた旋律
時は大正8(1919)年。作家志望の平井太郎が、あの江戸川乱歩となる前夜を描いたNHK土曜ドラマ『探偵ロマンス』。さまざまな文化が交錯した街並みを舞台に、探偵や秘密結社が跋扈する物語へ、劇伴とエンディングテーマを制作した大橋トリオ。
「2022年の中頃、制作スタッフと打ち合わせを始めた時点で、シーンごとに、音楽的なリファレンスがありました。僕の場合、そういう参考資料があった方がやりやすいタイプなので、脚本や資料を読みながら曲を作っていって。作業が進む中、さらにスタッフとやりとりを続けていたところ、エンディングテーマの参照として、僕の『LOTUS』(20年)という曲が挙がってきました。シンセサイザーの音色が前面に出た曲ですが、“大正時代の設定だけど、時代考証に縛られず、ファンタジー的に解釈してもらいたい”ということで。ドラマが終わると同時に、『生きる者』のイントロのシンセが鳴るのは、物語が幻想的であることのアナウンスだと解釈しました」
自由な解釈が許されても、もちろんドラマの軸となる時代背景には気を使ったという。
「いくら解釈を委ねられても、劇中に登場する舞台の曲は、さすがに時代設定に沿って作りました。『華炎城の舞姫』の3部作など、どんなメロディが流行って、どんなリズムが喜ばれていたのか。全然わからなかったので、当時の資料を参考に、調べながら作っていきました。そんな中、劇中の舞台曲で上白石萌音さんが歌う『叶わぬ夢』には救われましたね。そもそも魅力的な声を持っていると思いますが、ミュージカルにもたくさん出演されていて、不遇の歌手という設定を演じながら歌う声は、歌詞とも相まって切なさが倍増されて。本当に素晴らしかった。我ながら素晴らしい曲になったと思います」
最終回のエピソードから、やはり続編が気になるところだが……。
「僕自身も気になっているんですが、どうでしょうね(笑)。未定だと思いますが、楽しみに準備しておこうと思います」