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かつての文豪たちも愛した荻窪で見つかる、心に残るスポット5選

明治から大正時代にかけて「西の鎌倉、東の荻窪」と称された荻窪。都心にほど近い別荘地として栄え、作家の太宰治や与謝野晶子、音楽評論家の大田黒元雄など、文化人にも愛された歴史を持つ街だ。


時を経た今もなお、駅前のにぎわいから少し離れれば、職人が腕を振るう小さな名店に出合うことができる。老舗のまんじゅう店から世界レベルのナポリピッツァまで、それぞれに物語を持つ5軒を訪ねた。

photo: Naoto Date / text: Nozomi Hasegawa

高橋の酒まんじゅう

一度食べたら忘れられない、酒まんじゅうのふくよかな香り

1985年の創業以来「酒まんじゅう」ひとすじ。ふかふかでもっちりとした生地に包まれるのは、なめらかで上品なこしあん。ひとくちほおばれば、ほのかな酒の香りが口いっぱいに広がる。

「米麹と生イーストを使った生地をひと晩発酵させ、翌朝に木製の棚『室』で休ませながら蒸し上げます。最後に北海道産小豆で炊いたこしあんをひとつずつ手で包んで仕上げるんです。9時半頃に蒸し上がるので、10時の開店にはまだホカホカの状態なんですよ」と3代目店主・横田友子さん。根強いファンが多く、予約で完売することもしばしば。衣をつけて天ぷらにして食べるのもおすすめ。1個130円。

鮨 赤酢 たかやま

江戸前寿司の奥深さを味わう、穏やかな時間

2025年6月にオープンの〈鮨 赤酢 たかやま〉。天井が高く開放的な店内で楽しめるのは、本格的な江戸前鮨だ。店長の井口信之さんは、豊洲市場へ自ら足を運び、目利きで旬の魚介を仕入れる。シャリは、100年以上の歴史を持つ〈キサイチ醸造〉の赤酢を使用。酒粕を長期熟成した芳醇でまろやかな味わいの酢が、ネタの旨味を引き立てる。

メニューは「おまかせコース」(13,000円)と「たかやまコース」(22,000円)の2種。美しい肴に始まり、旬の魚介を使った握りやお造りへと続く。どちらのコースを選んでも、最初の握りで中トロが登場。「旨味の濃い中トロは、お腹が空いているときこそ味わってほしいネタなんです」と井口さん。穏やかな人柄の井口さんとの会話も心地よく、一度訪れるとまた足を運びたくなるはずだ。


杉並アニメーションミュージアム

アニメの発信地で、制作の裏側に触れる

杉並区は、アニメ制作会社の数が日本一を誇る「アニメのまち」。その歴史や制作過程を学ぶことができる国内唯一の博物館が〈杉並アニメーションミュージアム〉だ。名誉館長を務めるのは『オバケのQ太郎』の小池さんで知られるアニメーターの鈴木伸一さん。

館内には壁一面の歴史年表や作画監督や美術監督など、制作デスクの再現展示、アフレコ体験、手描きアニメの制作コーナーなどがワンフロアにぎゅっと詰まっている。シアターやライブラリーも併設され、1日中アニメに浸ることができる貴重な空間だ。

トマト

修業時代の忘れられない味を再現した欧風カレー

欧風カレーとシチューの専門店〈トマト〉。店主の小美濃清さんは大阪のレストランで修業を積んだのちに独立。定番の「和牛ビーフジャワカレー」は修業時代のまかないカレーから着想を得た一皿だという。

「当時の料理長が月に一度、カレーを作ってくれたんです。辛味と甘味のバランスがちょうどよく、今でも忘れられないほどおいしかった。その味を目指して試行錯誤を重ねました」

ほろりと柔らかい国産黒毛和牛がゴロッと入ったカレーには、36種のホールスパイスやハーブを使用。濃厚な旨味にスパイスの辛さが重なり、あとから優しい甘みが追いかけてくる。鼻を抜けるスパイスの華やかな香りも心地いい。

PizzeriaTrattoria Da Okapito(ピッツェリア トラットリア ダ オカピート)

荻窪の中心で、ナポリピッツァの真髄を味わう

2019年の「ナポリピッツァ世界選手権」で3位に輝いたシェフが腕を振るう、ナポリピッツァとイタリア伝統料理のレストラン。各地で採れた旬の食材を使うためメニューは日替わりだが、店の目玉は「マルゲリータ ブッラータ」。

小麦粉と酵母、塩、水のみで仕込んだ生地を伸ばし、トマトソースと具材を乗せて店内の薪窯へ。400〜450度の高温で一気に焼き上げる。軽やかで美しい工程に、思わず見惚れてしまう。中央に鎮座するのは数時間前にナポリから届いたばかりの“正真正銘”フレッシュなブッラータ。その濃厚で爽やかな味わいが、トマトの酸味やルッコラのほろ苦さと響き合い、イタリアの風を感じさせてくれる。