孤独な社会にはお節介も必要?
大空幸星
『川っぺりムコリッタ』には、死をまとったような人々と、生の象徴である食べ物が登場して、その対比がすごく面白かったです。
ハイツの住民は多くを語らないけれど、相手の状況を推し量りながらつながりを持ち始めます。孤独ってグラデーションがあって、完全になくなることはない。でも、誰かとつながることで薄らいでいき、小さな幸せを見つけていけるんだなと思いました。
荻上直子
感想をありがとうございます。
大空
生に絶望している主人公の山田に、隣人の島田がものすごく干渉してきますよね?普通なら鬱陶しく感じるでしょうが、山田ほど他者との関わりを断った人は、あのくらいトゥーマッチなお節介をしないと、抜け出せないんですよね。
荻上
登場人物は無意識に書いているところも多いのですが、そうなんですね?
大空
昔は地域のなかにお節介を焼く人がいて、特に子供たちに目が注がれていました。今は少子化が進んでいるのに子供の自殺は増え続けて年間約500人が亡くなっています。
荻上
最年少は何歳くらいなんですか?
大空
去年は9歳以下の子供が1名亡くなりました。いじめが原因でした。ただ、いじめが原因の自殺は実はそれほど多くないんです。30代以下の自殺の3人に1人は原因がわからないんです。僕らの相談窓口でもよくあるのは、自分が何に悩んでいるのかわからないケース。
荻上
え?わからないんですか?
大空
漠然と生きたくないと思ってしまうんです。親にも先生にも心配をかけたくなくて、自分に問題があると懲罰的な思いにとらわれ抱え込んでしまう。些細な嫌なことが積もっていって、誰にも話せないことで一層苦しくなる。昔なら、雑談で誰かに話して解消できたのでしょうが、そういう交流が失われてしまって。
荻上
うちの子供も、小学校から帰った後に人と遊ぶ習慣がないですね。昭和の頃は、あの公園に行けば必ず誰かに会えるというような場所があったけれど。
大空
だから、〈ハイツムコリッタ〉のような人間関係に憧れて、あそこに住みたいと思う人はたくさんいると思います。
荻上
ハイツの住民は、社会に置いてきぼりになった人たちという感じがしています。彼らはいったんあそこを出たら、もう二度と会わないかもしれないけれど、ある一瞬は強く結びついている間柄。
大空
日本には家という単位があり、両親と子がいる家族が理想でその先に地域があるというイメージが一般にあります。でも、自分の家が安全ではない人もいる。家族が機能していない人たちにとっては、ハイツの住民のような他者とのつながりによって乗り越えて生きていける。それを映画で示された気がしました。
荻上
私は映画製作という道を見つけたから、今社会生活を送れていますけど、そうでなかったらダメ人間になっていただろうという自覚があります。あのハイツに住んでいたかもしれません。
相手を肯定し、承認する
大空
今、若者の間で、挨拶するだけの関係を「よっ友」と呼んでいますが、よっ友では孤独は埋まらないんですよね。電話やチャットの相談窓口は、相手の顔も名前もわからないし、接点はとてもカジュアル。でも、濃い話ができます。
荻上
〈あなたのいばしょ〉の相談は全部文章でやりとりするんですか?
大空
はい。子供や若い世代は電話よりもチャットに親しんでいます。あと、長文を打ち込んでいる間に、自分の問題が整理されて、解決する人もいます。
荻上
私も子供の頃から、ネタ帳兼悪口帳みたいな日記をつけていますが、書くことで客観視できて、楽になることってたしかにありますね。
大空
相談窓口は問題解決が目的ではないんですよね。「とりあえず明日も生きてみよう」と思えるところを目指します。徹底した傾聴。映画のなかで、島田は山田の米の炊き方をやたら褒めますよね?まさにあれをやっています。相手を肯定して承認することで孤独は少し和らいでいくんです。
荻上
私が無意識下に書いていた登場人物の行動は正しかったんですね?なんだかちょっと嬉しいです(笑)。