オカルトと映像、
その相性は、最悪で最高だ
そもそも「オカルト」が映像に映ることはありません。なぜなら、「物理現象の外にあるもの=オカルト」だから。逆に言えば、カメラは物質が反射する光を捉えるので、映るものはすべて物理法則に則っているということ。絶対に画面に現れないという点において、両者の相性は最悪と言えるでしょう。
一方で、「映すことができない=必ず失敗に終わる」試みに挑戦する、ドン・キホーテ的な面白さがついて回るのも事実。ここにオカルトをテーマにしたドキュメンタリーの魅力の一つがあります。
ただし、この手の作品はかなり多いですよね。秘密結社や未確認生物などオカルト的な事象を解説するものもあれば、明らかなやらせも織り込み済みでエンターテインメントとして楽しめる作品もある。
今回はぎゅっと的を絞って、オカルトに真正面から向き合い、映画としての面白さも十二分にある作品を3つご紹介します。
職業欄はエスパー
超能力者は、
噓をついているか?
3人の超能力者を追った『職業欄はエスパー』の中で、監督の森達也さんはその力を試すために、取材中に突然、“能力を見せてください”とお願いします。その結果は本編に譲りますが、面白いのは、森さんが本当に興味があるのは“超能力”それ自体よりも超能力者その“人”であること。
例えば、超能力者の秋山眞人さんに「嘘をついてないですか?」と聞く一幕があります。これと全く同じ言葉をのちに映画『FAKE』でも佐村河内守さんにも投げかけているんです。森さんの“人”に注目する姿勢が一貫していることがよくわかります。
一転して、“能力”そのものに注目した作品もあって。『デッドストック〜未知への挑戦〜』はドラマ作品ですが、最終話のラストのみ、ドキュメンタリータッチのシーンが入ります。森さんと、スプーン曲げができる超能力者の清田益章さんが登場し、スプーンが曲がったところで「このドラマはフィクションです」とテロップが出る。
能力が嘘か本当かという二元論をうまく利用した、小気味いい作品です。
稲川淳二 恐怖の現場
稲川淳二は
なぜ涙を流したか?
『ほんとにあった!呪いのビデオ』をはじめとする心霊ドキュメンタリー作品は、フェイクだとの前提ありきで楽しむもので、その中で独自の発展をしてきたところがあります。そうしたこのジャンルの中でも一線を画すのが、『稲川淳二 恐怖の現場』。
稲川さんと同行人2人がいわくつきのスポットに出向く姿を追った作品で、やらせなし。だから、はっきりいってしょぼいことしか起こらない(笑)。ただ、この作品のすごさは、稲川さんが持ち前のマシンガントークで、その場で得た体験を語り尽くすこと。
多くの自殺者が出ている秩父の吊り橋を訪れたときには、そこにいる霊と話したという体験を涙ながらにまくしたてます。演技や演出はなく、100%の主観がある。ここには真実のきらめきすら感じられるんです。
虚空門GATE
UFOはいない、が……
オカルトと切り結んだ一作
UFOを嘘だと切り捨てるわけではなく、かといって信じ切るわけでもない。ドキュメンタリーとオカルトが切っても切り離せないとき、なにが起こるのか?それを見せてくれるのが、傑作『虚空門GATE』です。
「UFOを呼べる」と話す俳優の庄司哲郎が撮影した写真に写る謎の物体の正体は、カメラレンズに限りなく近づけた“こより”だった……。
彼の言葉が「嘘」だと明らかになり、直接の告発を経てもなお、まだ撮り続けるんです。ここからが本作のキモ。ここまでの庄司やその妻、取り巻く人々の関係を知っているからこそ、夜空に光る“なにか”をUFOだと感じられる瞬間が確かにある。
存在はせずとも、UFOを見たという体験そのものは誰にも否定し得ない尊いものなのです。嘘も本当もないまぜになった人間の真実が映っているとも言えます。もっといえば、虚実という単純な二項対立では測れないものを描き出している点で、本作はドキュメンタリー映画としてもぬきんでていると思うんです。