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彫刻家、ブレイクダンサー・小畑多丘の机と仕事場。つながりや流れのなかから、机もアートも生まれ出る

ある人は「机なんて、なんでもいい」と言い、またある人は「この机じゃないとダメ」と言う。創作の手助けをする道具でもあるし、体の一部みたいに親密な存在でもあって、整えたり散らかしたりを繰り返しながら、絵や言葉やデザインが生まれる。その痕跡が残る机と仕事場を訪ねた。

photo: Taro Hirano / text: Asuka Ochi / edit: Tami Okano

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積み重ねられた時間が、大切に昇華される場所

ブレイクダンスの身体的な動きをモチーフとした木彫や、物質の移動性を転換したペインティング作品を手がける、彫刻家の小畑多丘さん。その作品は拠点とする埼玉県所沢市の2つの空間で制作されている。

大学院修了後の2008年、実家の物置を改装したアトリエは、幼少期から過ごす原点的な場所にある。春になると梅や桜が咲く中庭と地続きの環境で、背の高さほどもある木を彫り、木くずが溜まれば落ち葉と一緒に外まで掃いて、庭に集めて燃やす。そうした体験も、作品の構想を広げていった。

「真っ黒に塗ったキャンバスから絵の具を削り取り、隣の白いキャンバスへ盛ることを繰り返して描く対の平面作品も、燃やした木っ端が形を変えて循環しているという“量の移動”から発想したもの。経験が生んだ思考がそのままコンセプトになっていくから、ここにあるものに関しても、なるべく自分からできているものや、つながりがあるものを大事にしたくて」

この場所からしてそうだが、家具や道具も、自作や友人作であったり、譲り受けたりしたものがほとんど。今は散らかっているというが、いったん、木彫の制作に入ると、その空気は一変する。

「制作時は手を伸ばせる位置に必要なものを置き、いつでも砥石が使える状態に整えて、作品と道具を行き来する。体が反復と連続を繰り返せるような空間を作ります。板を敷いた床や作業台、馬脚などは、木彫では釘などが出ていない状態が基本。落としたノミに金属が当たったりすると、すぐに刃が欠けてしまうからなんです」

机の角に置かれた砥石から、木彫における刃物がどれほど大事かが伝わってくる。機械を使わずに研ぐのも、それが作品の仕上がりを左右するからだ。1年ほど前、自宅近くに構えたスタジオも、これから木彫のための空間になるという。広さはもとより、天井高が6m近くある空間は、作品の可能性をさらに広げてくれる。

「ここなら同時に複数の作品を作ったり、大きい作品をそのまま展示したり、美術館のようなスケール感を得られる。もっといろんなことが想像できるし、やれることも増えますね。たまたま隣に、木工作家の佐々木毅さんの工房があった縁で、10年前に切った庭のケヤキで机を作ってもらったところなんです。最初は彫刻にするつもりでしたが、そうすると売って手元に残らなくなってしまうので、机にするのがいいかなと」

小畑さんのシンメトリーな作品イメージから構想されたワーキングテーブルには、木目を対称的につなぎ合わせる方法が用いられた。この机もまた、庭で刻まれた時を経てのつながりをとどめている。

「机もそうですが作品も、ダンスがあったから彫刻ができて、彫刻からさらにドローイングに発展したりする。自分が培ってきたものに自問自答して生まれる、オリジナリティが面白いんだと思います」

彫刻家、ブレイクダンサー・小畑多丘の仕事机
木彫のための板を敷いたスタジオで、ドローイングに取り組む小畑さん。彫刻の返送に使われたコンテナに板を置いた机で、筆は一切使わず、スプレーインクとアクリル絵の具、左官用のヘラで描いていく。左は、木目を左右対称に並べる「ブックマッチ」の手法で作られたワーキングテーブル。ダイニングテーブルにもなるよう、少し高めに設計された。

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