Visit

元気な野菜と新鮮な魚介に魅せられる料理人が続出。長崎・小浜温泉、雲仙温泉

“山”の雲仙温泉と“海の”小浜温泉。2つの温泉が位置する長崎県南部の雲仙市小浜町。今この土地には、恵まれた自然のもと育つ野菜や新鮮な魚介に魅せられた“おいしい”を生み出す料理人が続々と移り住んでいる。今こそ、海と高原のおいしいものを味わい尽くす温泉旅へ出かけよう。

photo: Norio Kidera / text: Michiko P. Watanabe

恵まれた地、小浜・雲仙。その違いを楽しむ

まずは、小浜温泉から。橘湾の海底にあるというマグマだまりのパワーのせいか、まるで吸い寄せられるように“おいしい”を生み出す人々が移り住んでいる。小高い山から見下ろす橘湾は「春の海」が聞こえてきそうな、のどかな風景。この美しい海に、そんなエネルギーの塊があるのかと思うが、最高105℃という熱湯が湧き出る源泉が約30ヵ所あるという話を聞けば、確かに、と納得できる。

長崎・橘湾
島原半島の西側に位置し、美しい曲線を描くカルデラ湾の橘湾は、日本景観100選の地にも選ばれている名勝地。高台に上れば、左手には雲仙普賢岳の山頂を見ることもできる。海底にはとんでもないエネルギーを放つ高温・高圧の“マグマだまり”があり、地獄の湯煙のもとになっている。橘湾は、いりこの原料となるカタクチイワシの一大産地で、沿岸漁業の聖地でもある。有明海からの沿岸水と外洋水が混じり合い、多種多様な魚たちを育んでいる。

海と山が近く、傾斜地が多いため、昔から人々は石垣を積んで農地や田んぼを作って暮らしてきた。普賢岳の火山活動のおかげで土壌もさまざま。その多彩さをうまく利用して、農業も盛ん。美しい海を擁しているから魚介も豊富。つまり、四季折々の食材に恵まれた地なんである。

おまけにここには、全国から譲り受けた在来種の野菜をコツコツと40年間、自家採種しながら80種ほど育て、未来へと繋いでいる奇跡のような農家、岩㟢政利さんがいる。その野菜に惚れ込み、また岩㟢さんの種採りの哲学に感銘を受け移住。直売所〈タネト〉をはじめ、さまざまな形でその素晴らしさを語り継ぐ活動をしているのが奥津爾(ちかし)さんだ。

長崎〈オーガニック直売所 タネト〉店内
〈オーガニック直売所 タネト〉。入れ替わり立ち替わり、農家の方が野菜を届けてセットしていく。

ビアード〉の原川慎一郎シェフも、岩㟢さんの野菜に衝撃を受けた一人だ。東京でもすごいと感動していたが、小浜で食べる野菜のチカラは半端なかった。「東京まで旅した野菜は疲れていたのかも」。大地のパワーそのままの野菜。これなら野菜だけでも十分満足してもらえる。それが移住の決め手ともなった。

一方、雲仙温泉には“地獄地帯”があって、本当の地獄かと思うような光景が広がる。大叫喚地獄や清七地獄など30余りの地獄では、もうもうと湯煙が上がり、地球の胎動を体感できる。キリスト教が禁教だった時代、地獄ではキリシタンへの拷問が行われたそうで、殉教者を鎮魂するための十字架も。残酷で悲しい歴史も秘められていた。

長崎・清七地獄
30ヵ所余りある地獄の一つ、清七地獄。潜伏キリシタンの清七が処刑された頃に噴出が始まったという逸話から、命名された。硫黄の臭いが漂い、まさに地獄の様相。

かつて外国人のための避暑地だったという面影を残す、国の登録有形文化財に指定されているクラシックホテル〈雲仙観光ホテル〉で、往時に思いを馳せながらゆるゆる過ごすのもいい思い出になりそうだ。

海と高原のおいしいものを味わい尽くす温泉旅へ

海沿いの小浜温泉と高原の雲仙温泉。地形が違えば、住人たちの気質も異なる。名物料理も違うところが面白い。せっかくならば、両方を味わい尽くしたい。高原では、チーズケーキや洋食など、ハイカラでちょっとおしゃれな食を。夜の飲み食い処があまりないのはちょっと残念だが、ホテルや旅館で英気を養おう。

長崎〈Locanda del Campo〉フリットにしたアコウ
地域に根ざすイタリア料理店〈Locanda del Campo〉。ワラで燻してからフリットにしたアコウ・新米と新ショウガのソース、アケビのフリットと発酵グリーンレモン。「ぼくらの米で造った日本酒」と。

小浜では、地元の魚屋や豆腐屋などで仕入れた食材やパンを蒸し上げる温泉蒸しや、割烹のような居酒屋でつまみとハイボール、ナチュラルワインが揃うワインバーで地元食材のつまみやパスタなどなど。地元の人たちとワイワイ和やかに楽しむ。

どちらも楽しい、どちらもおいしい。雲仙市小浜町って、ホント、いいとこだなぁ。

海と高原のおいしいものを味わい尽くす!長崎・小浜温泉、雲仙温泉で訪れたいスポット19選