恵まれた地、小浜・雲仙。その違いを楽しむ
まずは、小浜温泉から。橘湾の海底にあるというマグマだまりのパワーのせいか、まるで吸い寄せられるように“おいしい”を生み出す人々が移り住んでいる。小高い山から見下ろす橘湾は「春の海」が聞こえてきそうな、のどかな風景。この美しい海に、そんなエネルギーの塊があるのかと思うが、最高105℃という熱湯が湧き出る源泉が約30ヵ所あるという話を聞けば、確かに、と納得できる。
海と山が近く、傾斜地が多いため、昔から人々は石垣を積んで農地や田んぼを作って暮らしてきた。普賢岳の火山活動のおかげで土壌もさまざま。その多彩さをうまく利用して、農業も盛ん。美しい海を擁しているから魚介も豊富。つまり、四季折々の食材に恵まれた地なんである。
おまけにここには、全国から譲り受けた在来種の野菜をコツコツと40年間、自家採種しながら80種ほど育て、未来へと繋いでいる奇跡のような農家、岩㟢政利さんがいる。その野菜に惚れ込み、また岩㟢さんの種採りの哲学に感銘を受け移住。直売所〈タネト〉をはじめ、さまざまな形でその素晴らしさを語り継ぐ活動をしているのが奥津爾(ちかし)さんだ。
〈ビアード〉の原川慎一郎シェフも、岩㟢さんの野菜に衝撃を受けた一人だ。東京でもすごいと感動していたが、小浜で食べる野菜のチカラは半端なかった。「東京まで旅した野菜は疲れていたのかも」。大地のパワーそのままの野菜。これなら野菜だけでも十分満足してもらえる。それが移住の決め手ともなった。
一方、雲仙温泉には“地獄地帯”があって、本当の地獄かと思うような光景が広がる。大叫喚地獄や清七地獄など30余りの地獄では、もうもうと湯煙が上がり、地球の胎動を体感できる。キリスト教が禁教だった時代、地獄ではキリシタンへの拷問が行われたそうで、殉教者を鎮魂するための十字架も。残酷で悲しい歴史も秘められていた。
かつて外国人のための避暑地だったという面影を残す、国の登録有形文化財に指定されているクラシックホテル〈雲仙観光ホテル〉で、往時に思いを馳せながらゆるゆる過ごすのもいい思い出になりそうだ。
海と高原のおいしいものを味わい尽くす温泉旅へ
海沿いの小浜温泉と高原の雲仙温泉。地形が違えば、住人たちの気質も異なる。名物料理も違うところが面白い。せっかくならば、両方を味わい尽くしたい。高原では、チーズケーキや洋食など、ハイカラでちょっとおしゃれな食を。夜の飲み食い処があまりないのはちょっと残念だが、ホテルや旅館で英気を養おう。
小浜では、地元の魚屋や豆腐屋などで仕入れた食材やパンを蒸し上げる温泉蒸しや、割烹のような居酒屋でつまみとハイボール、ナチュラルワインが揃うワインバーで地元食材のつまみやパスタなどなど。地元の人たちとワイワイ和やかに楽しむ。
どちらも楽しい、どちらもおいしい。雲仙市小浜町って、ホント、いいとこだなぁ。