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コーヒー豆のセレクトショップ〈KOFFEE MAMEYA〉。國友栄一氏の店が特別な理由

〈KOFFEE MAMEYA〉は実に稀有な存在だ。一言で言えばコーヒー豆のセレクトショップ。だが単に話題のロースタリーの豆を集めて販売しているわけではない。そのほとんどが生豆の選択から携わり、店専用に焼き上げた別注品。だからこそ、ここでしか飲めないコーヒーを求めて世界中から客が集うのだ。あえて“焙煎しない”道を選んだバリスタ・國友栄一氏の店は、何が特別なのか?そして豆を知り尽くした男が作るブレンドとは?

Photo: Koh Akazawa / Text: Yoko Fujimori

MAMEYAの別注スタイルとは?

KOFFEE MAMEYA〉は常に20種類ほどの豆を揃えるが、その8割がこの店用に特別に焙煎されたもの。つまり焙煎元のロースタリーに行っても同じものは買えないのだ。

例えばマイクロロースターは仕入れ量が少ないため良い豆を競り落とせないという現状があるが、この店の試みに共感する生産者が最高ランクのグリーン(生豆)を分けてくれたり、長い付き合いの大手ロースターからいいヴィンテージの豆を入手した際は、豆の特性を引き出せる焙煎士に焼いてもらう。焙煎士にとっても、自分の店ではやらない超浅煎りや超深煎りに挑戦できる。

“抽出者”としての深い知識と情報力、そして「焙煎しない」ゆえの自由さで、生産者と焙煎士の間を中立の立場でつなぐことができる。國友栄一さんは料理人であり、ディレクター的存在なのだ。

國友栄一(バリスタ)
カウンターでコーヒーを提供する國友さん。抽出はハンドドリップ、アイスは水出しで。

あえて焙煎しないのはなぜ?

入口横に設置された「ラボ」では、ハンドピックや豆の個包装をし、ブレンダー(豆をブレンドする機器)でミックス作業もする。ただし焙煎機は、ない。

ここ数年、多くのバリスタが自らロースタリーを始める中で、國友さんは「焙煎しない」立場を貫く。「一日中豆と向き合う焙煎作業と、バリスタの仕事の両立は自分には難しい。だから“抽出者”に徹し、最良の豆と淹れ方を伝える道を選んだんです」。

豆には挽き方から湯温、抽出時間まで、きめ細かに記したレシピが添えられる。焙煎士に依頼する際も、バリスタとして培ったネットワークと信用で橋渡し役となり、生産者から最高峰の生豆を共同で仕入れたりもする。「最高の豆=素材が集まり、それを最高においしくできる料理人=抽出者がいる」店こそ、國友さんの理想の形なのだ。

ロースターはどうチョイスする?

現在、依頼しているロースタリーは、日本各地をはじめスイスの〈MAME〉やイタリアの〈Ditta Artigianale〉、オーストラリア、デンマーク、台湾、韓国など。基準は、しっかりとしたコンセプトを持っていること。

「浅煎りが得意なロースターでも、厚みや飲み応えを重視する人や、フレーバー(香り)に特化する人もいる。フォーカスする対象が明確で、コンセプトが味に表現されている焙煎士に依頼します」と國友さん。

技術の高さはもちろん、意見をフィードバックし合える人間性も大事、とも。常に国内外の焙煎士とコミットし、WBC (ワールド バリスタ チャンピオンシップ)の会場などで出会うことも多いという。ちなみに海外の焙煎士が来日した際は、ゲストバリスタとして店に立ち、自身の豆をプレゼンすることも。

焙煎度合いの順に並べられた豆の早見表
焙煎度合いの順に並べられた豆の早見表。この店で扱うすべての豆が一目でわかる。

オリジナルブレンドを作るなら。

〈KOFFEE MAMEYA〉のディレクション力が発揮されるのがオリジナルブレンドだ。例えば2018年に発売した季節限定の「夏ブレンド」なら、ライトローストの名手である東京の〈Unlimited Coffee〉に依頼し、「甘さを残しながらも清涼感のある味わい」をリクエスト。

〈Unlimited Coffee〉はコロンビアなどの中南米の豆で甘さを出し、エチオピアの華やかな香りとコロンビア・ゲイシャで爽やかさを構築した。配合バランスは、まず各豆を抽出して液体の状態でミックスし、國友さんと焙煎士で試飲して決定する。

ブレンドは生豆の状態で混ぜて焼くプレミックスと、豆を個別に焼いた後で混ぜるアフターミックスの2種あり、アフターの場合はラボに導入した特注のブレンダーで混ぜ合わせる。まさにブレンド作りは焙煎士との“共同作業”だ。

〈フジローヤル〉の特注ブレンダー
ラボの〈フジローヤル〉の特注ブレンダー。最大20㎏のブレンドが可能。

個性が光るブレンドたち。

店の顔ともいえる定番は2種類あり、共に京都の〈小川珈琲〉が担当。年に2回登場する季節限定ブレンドは福岡の〈豆香洞コーヒー〉や東京の〈Unlimited Coffee〉などに依頼。より個性を際立たせた味わいで楽しませる。

【定番】ブレンドNO.1 小川珈琲(京都)

エスプレッソ用=ミルクを入れて飲むことを想定し、ミルクの甘さを引き出すバランスに。エルサルバドルとブラジルをベースに、2種のエチオピアで華やかさを、インドネシアで触感を出した。

ブレンドNO.1 小川珈琲(京都)
中深煎り。150g ¥1,200。コールドブリュー用に開発された「ブレンドNO.2」もあり、甘味のあるグアテマラとキレのいい酸味のケニアで構成。中煎り。150g ¥1,700。

【季節限定】シーズナルブレンド・冬 豆香洞コーヒー(福岡)

2013年に『ワールド コーヒー ロースティング チャンピオンシップ』で世界一に輝いた焙煎士・後藤直紀さんが、MAMEYA史上最も深いローストに挑戦した意欲作。ペルー8:インドネシア1:インド1の割合で力強いボディ感と“冬のほっこり感”を表現。超深煎りでも苦味だけでなく柔らかな甘味が出せることも証明している。*2019年冬発売。現在は販売終了。

シーズナルブレンド・冬 豆香洞コーヒー(福岡)

豆は最高の環境でテイスティングできる!

扱う豆は試飲可能(有料)で、丁寧にハンドドリップしてくれる。

2017年1月創業。きめ細かな対応で客の希望に沿う豆を提供するコーヒー豆の専門店。150g単位で販売、¥1,200〜。豆には挽き方、抽出法、湯温などを記したレシピが付く。試飲は1杯¥350〜。