中華を食べに横浜へ。しかし目的地はチャイナタウンではない。目指すは横浜最大の盛り場・野毛。実はここ、知る人ぞ知る中華食堂密集地なのだ。
桜木町から日ノ出町までつぶさに歩けば、居並ぶ一杯飲み屋に交じってそこかしこに雷文(らいもん)マーク。暖簾(のれん)の向こうに、ビール片手に料理をつまむ常連らしき姿が見える。そんな野毛中華の筆頭に挙げられるのが〈第一亭〉と〈萬里(ばんり)〉。ともに半世紀以上にわたり愛される名店だ。
第一亭
両店に共通するのはモツ料理の旨さである。〈第一亭〉は開業時からモツが看板料理。レバーやホルモン(大腸)はもちろん、チート(胃袋)にハツに小袋、豚足にタン、カシラ、豚耳までがメニューに並び、「豚には捨てるところがない」という言葉を実感する。
「親父とお袋が店を始めた頃は、お客さんの多くが、港で力仕事をする人たち。桜木町の駅あたりから日雇いの仕事に出て、仕事が終わったら日当を握って野毛に繰り出すわけ。モツはスタミナ食。おまけに安くて旨いし、腹もちもいいでしょう。子供の頃、店に顔出すと、おじさんたちがみんな必ずモツをアテに一杯やってたねえ」
そう語るのは2人の姉とともに開業以来の味を受け継ぐマサさん。今も両親がやっていた通りに、毎朝届く新鮮なモツを徹底的に洗い、余分な脂や皮を潔いほどに取り除き、ゆでこぼして下ごしらえ。アクや臭みとは無縁のモツ料理を作り出す。
「うちの料理は、ホルモンのみそ炒めをはじめニンニクを効かせたものがほとんど。味のベースは台湾出身の両親が舌で覚えた故郷の味だけど、こんなにニンニクたっぷりになったのは、やっぱりスタミナをつけたいっていうお客さんの声に応えてのことかなあ」
萬里
一方の〈萬里〉は終戦直後、野毛に闇市ができた頃に創業。満州から引き揚げてきた祖父母が屋台で餃子を商ったのが始まりだという。
「当時の野毛は今以上に賑やかだったそうです。買い出しの人、仕事を求める人、労働者と、お客さんに事欠かない状態。満州で教わった豚まんをアレンジした餃子が飛ぶように売れたと聞きました」と3代目の福田大地さん。昭和24(1949)年には今の場所に店を構え、2代目に代替わりした頃には大使館で腕を振るっていた料理人を雇い入れるほどに店は大きくなった。
「メニューが増えてモツ料理が加わったのは、その頃。うちが使っているのは豚の胃袋とレバーですが、新鮮で質のいいモツは、それ自体も旨いですが、うま煮に入れるといい味が出て料理全体の味を底上げしてくれる。だからうちでは八宝菜もモツ入り。ナマコとモツのうま煮なんていうのも旨いですよ」
レバーの唐揚げなどというビールにもってこいのメニューもあって、これも飲ん兵衛に大人気だという。
アテになる野毛の中華は小ポーションなのもうれしい限り。今週末、モツで一杯やりに行きましょうか。