『New Moon Daughter』Cassandra Wilson(1995年)
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カサンドラの傑作。
カサンドラ・ウィルスンの『New Moon Daughter』は、1990年代の僕の好きなレコードのベスト3に入ると思います。それくらいのめり込んだアルバムです。
彼女のことは以前から知っていましたが、ちょっと頭でっかちな方向に向かっていた印象があって敬遠していました。でもブルーノート・レーベルに移籍してからはずいぶん印象が変わりました。このアルバムはブルーノートでの2作目ですが、93年に出た『Blue Light ‘Til Dawn』も素晴らしくて、ジョウニ・ミチェルやヴァン・モリスンの曲を採り入れ、バックにはピアノはなく、ジャズのヴォーカリストのレコードでは珍しくギター、ヴァイオリン、打楽器が中心でした。
どうやらそこには、新しく担当になったクレイグ・ストリートという無名のプロデューサーの存在があったようです。彼が斬新なアイデアをいろいろカサンドラにぶつけたんじゃないかな。
そして95年に出したのが『New Moon Daughter』です。「新月の娘」というタイトルのこのアルバムは、新月から満月へ、そしてまた新月に戻るというコンセプトが面白い。僕はこのコンセプトを、生と死と再生といったニュアンスで理解しました。選曲も何らかの形で月にまつわる曲が多く選ばれているんだけれど、ビリー・ホリデイの「奇妙な果実」から始まって、U2、サン・ハウス、ホーギー・カーマイケル、ハンク・ウィリアムズ、マンキーズ、その間にいくつかオリジナルがちりばめられて、最後をニール・ヤングの「Harvest Moon」で締めくくっています。
こうやって並べると支離滅裂な印象だけど、彼女の歌で聴くとすべて彼女の歌になりきっています。その解釈力のすごさには、「恐れ入りました」と頭を垂れました。ちなみに僕は、それまで聴かなかったハンク・ウィリアムズを、このアルバムの影響で初めて真剣に聴くようになりました。
カサンドラは声がメチャメチャ低くて、音域はそれほど広くない。そしてメロディを崩して歌うので、好き嫌いはあると思います。なので押し売りはしたくないけれど、よかったら一度このcheers pb推薦アルバムを聴いてみませんか?
CD-10:「A Little Warm Death」
アクースティックギター2本とヴァイオリン、パーカションのサポートで歌うカサンドラの自作。月の満ち欠けを引き合いに出しつつ、生まれ変わるために体験する死を歌ってるんだけれど、Warmを挟むことで怖いものじゃないというニュアンスを感じさせているあたりが、僕は気に入っています。