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新・ニッポン観光:四国(高知・四万十・仁淀川)

アユ釣り、カツオ、川遊び、サーフィン……。一級の清流と大海を求めて、土佐へ。

Photo: Keisuke Fukamizu / Text: Naoto Matsumura

育まれた自然と暮らしを、移住者も共に守る。

月見の名所として知られる桂浜の海を見て、坂本龍馬は異国への夢を抱いた。
室戸岬の大きな空と海を目にして、弘法大師は空海の法名を得た。高知と聞いて多くの人が思い浮かべるのは広大な太平洋ではないだろうか。その海を形作るのは豊富な清流。実は高知の山地率は84%にも及ぶ。

アユは海に近い河口で生まれ、一度海に出て稚魚となり、暖かくなる頃に川の上流へ上り成長する。“香魚”とも呼ばれていて、清浄な川の苔を食べて育つほどに雑味がなくなる。水が美しい仁淀川が育む産物、ゆえに旨い。

旅の始まりは“自然豊かな地”くらいの認識でいた。

高知に着くと、葉山から移住した料理家の有元くるみさんをまず訪ねた。「料理道具とサーフグッズを車に積んで西日本を旅していたときに、海や川はもちろん、路面電車が走る市内の景色を見てビビッときて、ここに住むことを決めました」。
その言葉の意味は、案内された街路市で理解できた。

日曜のみ、市内のシンボル高知城から続く1㎞の車道を封鎖。400ほどの店が並ぶ街路市は、農家が自ら育てた海や山の幸がずらりと並ぶ。

300年も続いていて、観光名所としても十分知られているのに、奇を衒った出店者はいない。東南アジアの屋台のような、この古き良き光景を見てビビッと感じない人はいないだろう。
道中は純喫茶、骨董店、フードコートのパイオニアとも謳われるひろめ市場なども混在していた。

居心地のいい空気にレイドバックして車を走らせる。市内以外は豊かすぎる山道、向かうは美しい青の仁淀川だ。
福島からオーストラリアを経てこの地に行き着いている、古民家改装のゲストハウスを営む大野剛司さんに会うと「せっかくだから川で泳いでいったらどうですか?」と言う。

仁淀川では泳ぎ、アユ釣り、カヌーなど透き通るブルーの淡水で老若男女が楽しむサウダージなニッポンの夏が普通に見られる。ちなみに林業が一次産業の軸だった頃を取り戻すべく自治体は林業に携わる人の支援に積極的。
誰もが仁淀川の持つポテンシャルを理解しているから、きっとこの地はこれからも美しい。

西に向かい四万十エリアへ。

真っ白な砂浜と緑の林が1.6㎞も続く大岐の浜に立つ。海水面上昇による陸の浸食を感じさせない広い砂浜と、清らかな海のコラボレーションは間違いなく日本の遺産だ。これを形成するのは全長196㎞の四万十川。

この川が最後の清流と呼ばれるのは、大規模なダムが存在しないからで、今では珍しい沈下橋は47も健在。この地もまた、飲食店を営む人、農家に作家など、多くが移住者だった。

大岐の浜からすぐの足摺海洋館が最近リニューアルしたというから足を延ばしてみる。「高知は手つかずの海や自然が多く残されていると思う。今も多くの生き物に出会える」とは逗子から移住している広報の茂木みかほさん。

館を抜けるとスぺーシーなデザインの海底館が海に鎮座する。「実は海洋館と変わらないくらいお気に入り」と話していた。

高知に良質な海山川が残っているのは改めて誇張するまでもない。肥沃な自然に根づく暮らしや建造物にまで住む人たちの愛があることこそ、この地の最大の魅力といえよう。
それは美しい環境に魅せられた移住者が多いのも要因なのかもしれない。