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コンセプトショップ〈LAILA TOKIO〉スタイリスト二村毅が愛してやまない、とっておきの店

誰にでもとっておきの服があるように、とっておきのお店がある。童心に帰り、興奮してしまうほど好きな服が集まるお店。ファッションの基礎を教わった“先生”のいるお店。ファッションのプロが教える、愛すべき僕のとっておきの場所。

Photo: Naoto Kobayashi / Edit: kontakt

後世に“伝える”というテーマのもと
厳選されたコンセプトショップ。

学生時代、雑誌編集のアルバイトをしていた二村毅。英カルチャー誌『THE FACE』に掲載されていたヘルムート・ラングの広告に魅了され、当時着ていた渋カジから突然路線変更。モードの世界へと誘われた。

二村がスタイリストを志すキッカケとなった1990年代のモードシーン。中でも時代を牽引したヘルムート・ラングとラフ・シモンズは二村にとっても特別だ。
ここで紹介するLAILA TOKIOは、ヘルムート・ラングやラフ・シモンズのストックに関して、国内随一の品揃えを誇るコンセプトショップ。コレクターであり、ディレクターとしての顔も持つhashiura hideo氏との放談が始まる。

スタイリスト・二村 毅
スタイリスト・二村 毅

二村毅

デザイナーズの古着屋さんって結構あるけど、ここまで編集されたお店ってあんまりないよね。それに、取り扱っているブランドもかなり精査されている。ビジネス的には、もう少し幅広く、いろいろなブランドを売っていく方が楽なはずでしょ。

hashiura hideo

そうですね。

二村

古着=アメリカのイメージがあるけど、それだけじゃない。ファッション、特にモードはシーズン的な打ち出しが強くて、普通、時間と一緒に流されてしまう。

hashiura

商売的には確かに簡単ではないですね。

二村

でもここに集められてる服は“流せない”貴重なものばかりなんだよね。そこが偉いというか。

hashiura

ですが、「あのデザイナーの服を集めてやろう!」ということではないんです。そんななか、マルタン・マルジェラ、ヘルムート・ラングやラフ・シモンズは特別で、強烈に惹きつけられました。

それは気になっていた作家のアート作品が次の週にふらっと寄ったギャラリーにあったときに、点と点が線に繋がり、衝動にかられて収集が始まるような感覚です。ですから、何か新しい発見がないかは常に注意を払っています。

二村

この3人は大好き。

hashiura

アーカイブを扱っているのは、売るという目的だけではなく、次に残していきたいという気持ちがあるからです。学生たちがお店に来て、当時の服に触れることができる。

ラングやマルジェラが全盛期だった頃、僕はサラリーマンだったので、オンタイムで体感してないんです。だから今の若い子は、きっと僕と同じ感情でしょうね。ネットや写真集でしか見たことがないとか……。

二村

なんかLAILA TOKIOって、ギャラリーみたいな雰囲気でいいんだよね。

hashiura

うちのお店に来る方に何が楽しいのかを聞くと、洋服の話ができることって言うんです。普通の会社員の人って、服のことを会社で話す機会もないし、友達とも、服の価値を共有できなかったり。
普通のセレクトショップに行っても、オンタイムの話題以外は、なかなか会話にならないみたいです。だから、ここに来て、マニアックな話をするのが楽しいって言うんです。

二村

そうだよね。海外からのお客さんも多いでしょ?

hashiura

そうですね。デザイナーとか、ファッション関係の方が多いです。特にラフ・シモンズ、ヘルムート・ラング、マルタン・マルジェラのアーカイブを探している人もたくさんいます。
いろいろなデザイナーさんから連絡をもらうたびに、この3ブランドが与えた影響って本当に大きかったんだなってつくづく思いますね。

二村

今勢いのあるファッションデザイナー、特にロンドンをベースにする若いデザイナーたちの多くがこの3ブランドから影響を受けているよね。
それに2015−16秋冬に発表されたカニエ・ウェストがアディダスとコラボレーションしたコレクションもミリタリーをコンセプトにしていたし、ヘルムート・ラングからインスパイアされているのかもね。

ヒップホップカルチャーへの2000年代のミニマリズムとユニフォームの融合が、きっと彼らの記憶の片隅に残っていて、それが服作りの根本になっていると思うんだよね。

スタイリスト・二村 毅2

ヘルムート・ラングの雰囲気を
手にしたいという衝動。

二村

俺がラングを好きになったきっかけは、シンプルなところ。ジャケットのステッチの数がすごく少なかったり、ボタンの厚さ、色に至るまで、すごく緻密に計算されている。
あとはユニフォーマルの要素。直接的にミリタリーを打ち出すのではなく、軍のユニフォームの美しさをモードに昇華している。そこがすごく美しい。

hashiura

そこに尽きますよね。削ぎ落としていく工程のなか、ミリタリーのディテールを踏襲しながらも、土臭さみたいなのが感じられない。モードにしっかり落とし込まれている。その加減が絶妙。

二村

ラングがスタートしたのって80年代後半だったっけ? 

hashiura

初期はオーストリア生産ですね。その後、プラダ社に買収されるなどして、次第にデザインされたものが増えていくんです。オーストリア生産の時のも、一着(1)残っていますよ。

二村

レディース?

hashiura

この時はラングはレディースしかやっていなかったはずです。シーズンまでは特定できないですが、90年代前半だったかな。

二村

このボタンはどこの国の軍のボタンがモチーフなんだろうね。

hashiura

どこのでしょう。80〜90年代初頭のラングってミニマルなものばかりではないんですよね。結構攻めてるものもあるんです。

二村

俺もレディース着てたな。もともとラングの服って少なかったじゃない?だからサイズ感がどうのとかじゃなくて、ラングの服を見ていると、この人の雰囲気を買いたいなって思ったもんね。サイズが合わなくても、買ってた。

hashiura

このラインシリーズ(2)、覚えてます?

二村

これこれ!衝撃だった。20年近く前だよね。 

hashiura

1996年ですね。

二村

シャツの襟に赤いラインが入ってるデザインもあって、忘れられないコレクションだったね。普通なんだけど、このラインがバックに2本入るだけで全然違う。ミリタリーの匂いを残しつつ、ものすごく洗練されている。

hashiura

この色違いのジャケット(2)を、ラフが、ディオールのショーのフィナーレで着て出てきたこともあったんです。

二村

なんかいい話ね。ラングのミリタリーがいいのって、年代がどうこうってことじゃないんだよね。単純に美しいというか。俺は、何がベースだとかあんまり気にしてなくて。別次元でモダンな魅力とか、モード感があるんだろうね。

hashiura

少なくともリプロダクションには見えないですよね。

二村

それにしても、ラングの功績はすごい。まったく古さを感じないクリエイションだね。

hashiura

ラングがやっていたことって、ファッションなんですけど、トレンドに左右されていない。今見てもかっこいいんですよね。

二村

ポストバブルの時代を象徴しているよね。アルマーニとかヴェルサーチ全盛の時って、ぎらついたセクシーな男みたいな男性像がもてはやされていて、それにすごい反骨心を持っていたデザイナーがいたんだよね。

アントワープ・シックスはもちろん、ヘルムート・ラングもその一人だったと思うんだけど。いわゆる80年代の価値観とは違うものを打ち出したすごいデザイナーたちだよね。その印象が強かったから、自分ものめり込んだよね。

いつまでも新鮮でクールな
ラフ・シモンズの魅力。

二村

そんなヘルムート・ラングやマルジェラに影響を受けながら、サブカルチャーのアプローチを取り入れたのがラフ・シモンズ。

hashiura

ラフ・シモンズも相当集めました。売れないもの、売りたくないものがたくさんあります。

二村

この人も個人的にすごく影響を受けたデザイナーの一人だね。当時と今の感情って、普通ずれたりするわけじゃない?あれ買っておけばよかった!みたいな。

hashiura

日常茶飯事です。

二村

ラフの服は特にそう感じる。アームが太いMA-1(10)とかさ、当時、斬新だったよね。このときのコレクションは大好きで、オーバーサイズの着方を勉強したね。このMA-1は、ずっと定番でやってもらいたいと思うぐらいインパクトあったなぁ。

hashiura

二村さんは、90年代のミニマルなラフ・シモンズと、2001年以降くらいからに見えるグラフィカルな印象が強いラフ・シモンズのどっちが好きですか?

二村

どっちかっていうと2001年以降のコレクションの方が好き。例えばこのモッズコート(11)みたいにトラディショナルのなかに、彼なりのアレンジがある服が好きだし、でっかいMA-1にレイヤードするスタイルには、やられたよね。その後、ラフがジル・サンダーと契約したのっていつ?

hashiura

2005年ですね。

二村

そのへんからまた違うステージに行ったよね。だんだんストリートの要素が薄くなってきていて、テーラードとかフィーチャリスティックな服を発表するよね。

hashiura

確かにクリエイションに幅が出ましたよね。今はディオールでオートクチュールも発表していますからね。

二村

ラングは、ジョン・チェンバレンとかドナルド・ジャッドが好きだったり、ラフは、今でも、音楽やアートを含め、サブカルチャー全般の文化的なものを常に探求している。
今だったらあいつらとコラボレーションしたら面白いとか考えているタイプだなって。

hashiura

ラフは、潔いじゃないですか。既にグラフィックアーティストのピーター・デ・ポッターやピーター・サヴィルなどと取り組み、2014-15秋冬のコレクションは、スターリング・ルビーとのコレクションを発表しました。
どれも新鮮で、ここまでストレートにアートとファッションを融合させたブランドはないですよね。

二村

そうだね。

hashiura

二村さんが言うように、カルチャーが背景にないといいブランドは生まれないですよね。

二村

で、次は何を買う予定?

hashiura

陶器が気になっています。ラフのインタビューを読んだり、二村さんにも影響されたのかもしれないですね。

東京〈LAILA TOKIO〉店内
数々のデザイナーズの名作アーカイブが保管されているLAILAのアトリエ。一般人は入れない、業界人御用達の秘密の場所。