目指せ、キッチン二十面相。
お気に入りの調理道具を使うとき、自分ではない誰かになれる気がします。たいやき器を取り出せば「うちのは尻尾まで詰まってるよ。羽根もつけとくね!」と気前の良い屋台のおばちゃん。
チャーハンの鉄人になって中華鍋を振る日もあれば、修業を積んだ点心師になって蒸籠で焼売を蒸す日もあります。バーナーで肉や魚を炙るときは、真剣な眼差しの居酒屋の大将。「今だ!」という加減を見極めます。
おいしいものを作り出す人の姿を思い浮かべながら、道具や食材を扱い、その気になって料理するのが好きです。そうやって料理をすると味も少しおいしくなる気がします。調理道具は、わたしにとって憧れの人物になれる変身アイテムなのです。
思えば、わたしは子供の頃から、“別人を演じる”ごっこ遊びに没頭してきました。妹2人と何時間もおままごとや人形遊びをするのが日課。面倒見のいいお姉さん、かよわいお嬢様、お母さん役の日もあれば、赤ちゃんの日もありました。主にテレビで仕入れたいろいろな人物像になって、小さな非日常を楽しんでいました。
そうか、わたしは“小さな非日常”の世界が好きなんだ。
料理は日常ですが、変身グッズを手にすればすぐに空想の世界に飛び込める。しかも子供のごっこ遊びと違って、おいしい料理という最高の副産物付き。
ごっこ遊びの沼にハマった少女は自分の小遣いで少しずつ道具を増やしながら、あちこちで見かけた姿の美しい料理人ごっこを続けるのでしょう。目指すは変幻自在のキッチン二十面相!