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よりニッチな本を追求する、オンライン書店のこだわり。〈flotsam books〉×〈ATELIER〉店主対談

ネットで書店を開くことは容易に思うかもしれないが、個性と工夫がないと生き残れない世界でもある。あえて実店舗を持たず、バーチャルな書店にこだわるのはなぜだろう。2人の店主に尋ねてみた。

Photo: Keiko Nakajima / Text&edit: Keisuke Kagiwada

オンライン書店界では老舗と言っても過言ではない〈flotsam books(フロットサムブックス)〉の小林孝行さんと、昨年〈ATELIER(アトリエ)〉を立ち上げたばかりの早水香織さん。本好きが口を揃えて話題にする、新旧2つのオンライン書店の店主がこだわる点とは?

小林孝行

早水さんはなぜオンラインで書店を始めたのですか? 

早水香織

5年間古書店で働いていたのですが、これからの人生設計を考えたとき、別の職業は全く思い浮かびませんでした。オンラインなら店舗を借りなくても、ある程度広さのある部屋があればできますし、オンラインで販売しつつ、定期的にギャラリーやイベントスペースの一角を借りてポップアップをするのがベストなんじゃないかなと思って。

実は始める前、〈twelvebooks〉の濱中(敦史)さんの事務所にお伺いしていろいろ聞かせてもらったときに「SEO対策(ネットで検索上位に表示されるための対策)のこととか、小林くんに聞いてみたら?」と言われていたんですよ。

小林

全然聞いてくれなかったじゃないですか(笑)。

早水

アートブックフェアやイベントなどで、よくお見かけしていましたが、なかなか話しかけられず(笑)。でも、実際のところSEO対策ってしてますか?
私は説明文の中に引っかかりそうな言葉をできるだけ多く入れたり、海外からもアクセスしてもらえるようローマ字表記も入れたりしているんですが。

小林

俺は全然してないな〜。だけど、ほかの店で扱ってない商品を扱えさえすれば、自然と検索に引っかかってきますから。

早水

やっぱりそこは重要ですよね。私は紙が好きなので、本とは呼べないような印刷物も扱っているんですね。人によっては紙切れにしか見えないかもしれませんが、そういうほかにはない個性も大事だと思っていて。
ほかに、オンライン書店だからこそ、気を配っていることってありますか?

小林

本の写真をあまりきれいに撮りすぎないことですかね。写真はきれいなのに届いてみたら「汚いじゃないか!」ってことがないように。経験あるんですよ。そうすると、もう二度とお客さんが買ってくれなくなるじゃないですか。

早水

わかります。状態を細かく表記していない店舗もありますからね。私も古書を中心に取り扱っているので、なるべく状態は細かく記載するようにしています。

小林

俺自身、ネットでよく買うからこそ、そこでの経験をもとに、とにかくお客さんのがっかりを減らす努力はしています。

早水

SNSの話で言うと、小林さんはTwitterも頻繁に更新されていますよね。本の紹介以外に、売り手がどんな人なのかを伝えるのも大事なのかなと。

小林

ニュースをシェアしたり、長い日記を書いたりね。ただ、今、原宿の〈LABRAT BOUTIQUE〉という洋服屋さんにうちの商品を置かせてもらっているのですが、声をかけてくれたデザイナーの前田嘉之さんはあの日記のファンらしいです(笑)。

前田さんは前からうちでいろいろ買い物もしてくれていたんですけど。前田さんに繋げてもらった関係性は多いですね。原宿〈Sister〉や中目黒〈THE WORKS〉に置かせてもらえているのも、実は前田さんのおかげなんです。

早水

すごい。はじめに言った通り、私も定期的にポップアップはしたいと思っているんですけど、いざやるとなると大変ですよね。先日、お声がけいただいてヒカリエのスペース〈aiiima〉でポップアップをやらせていただきましたが、集客には苦戦しました。

オンライン書店談義 〈flotsam books〉小林さん〈ATELIER〉早水さん
(左)早水香織さん(ATELIER主宰)、(右)小林孝行さん(flotsam books代表)

いい本をいいお客さんに。
贔屓を作ることの重要性。

早水

ところで〈ATELIER〉と〈flotsam books〉の一番の違いって、仕入れの方法だと思うんですよ。〈ATELIER〉は古書組合に入っているので、市場に行って束で本を仕入れてくるんですが、小林さんはどうやって仕入れているんですか?

小林

古本はほぼお客さんからの買い取りですね。

早水

買い取りであれだけの古本が集まるのはすごいですね。洋書の新刊も多いですよね。

小林

新刊は基本的に出版社や作家と直接やりとりしています。なるべくディストリビューターがいる本は扱わないようにしています。ほかの誰かが扱っているならうちがやらなくてもいいかって。

もともと俺は古本屋の雇われ店長の傍らオンライン書店を始めたんです。だから、当初は古本屋だったんです。だけど、古本って一度売ったら、もう二度と入ってこないことが多い。いい本なのに紹介できない辛さがあるんです。

新刊だとそれが少ない。だけど、自分が選んだ新刊だけだと視野が狭くなってしまうので、お客さんからも買い取ったりして、「自分が自分が」ってならない品揃えにするよう心がけているという感じです。

ちなみに、早水さんは値下げします?

早水

私は基本的にしませんね。

小林

俺は結構しちゃうんですよ。人によりますけど、贔屓(ひいき)があった方がいいんじゃないかなって。すぐ売れそうな商品が入荷したとき、先着順で売れてしまうのが嫌なんですよ。

だから、よく買っていただく方に先に連絡して「どうですか?」って。あとは近所に住んでいる人なら届けに行ったりすることもあります。

早水

そんなことまで(笑)。
小林さんは、今後の目標みたいなものってありますか?

小林

〈flotsam books〉を大企業に俺ごと買収してもらうことですね。
誰かにあやかりたい(笑)。

エッジーなテーマを持ったビジュアルブック。
〈flotsam books(フロットサムブックス)〉

紙や印刷の手触りも楽しいデザインの美しい本たち。
〈ATELIER(アトリエ)〉