
1.予選と本選は衣装も髪形も同じでないといけない
予選の前説では、舞台監督から参加の条件が再確認される。その一つが「予選と本選は同じ衣装と髪形で」というもの。もちろん小道具を使う場合も同じ。全体の印象も含めて審査して本選出場者を決めているから、というのがその理由だ。
前説では、予選を前にして緊張する参加者たちに「緊張するのは他人から見られていると思うから。これから始まるのは親戚同士のカラオケ大会です!」と言って、気持ちをほぐし、コール&レスポンスで会場を温める。

2.予選のトップバッターはその回の担当ディレクター
NHKのど自慢は、東京、開催地域の拠点局、開催地域の地元局(滋賀開催の場合、拠点局は大阪、地元局は大津局となる)、それぞれのスタッフによる混成チームで制作され、地元局のスタッフがその回のディレクターを務める。オンエアで流れる地元紹介VTRに登場するのが、そのディレクター。
予選では、約200組の参加者による歌唱の前に、「ゼロ番歌唱」としてディレクター本人が歌うのが毎回の恒例となっている。参加者を勢いづける大事な役割だ。

3.のど自慢の予選あるある、「同じ曲が何組も続く」
予選の歌唱は曲名のあいうえお順で行われる。なので、「かもめが翔んだ日」が連続で歌われる、といったことがよく起こる。のど自慢の定番曲やゲスト歌手の代表曲の場合、予選で同じ曲が何組も続くことも珍しくないという。
最近ののど自慢は中森明菜など昔の歌謡曲を歌う中学生がなんだか目立っている……と感じるのだが、取材日でも中森明菜「ミ・アモーレ」を歌う中学生や、弘田三枝子「人形の家」を歌う中学生までいて驚かされた。

4.審査は別室で、真剣に、厳かに
予選も本選も、審査はホール内ではなく同じ施設内の別室で行われている。審査員全員が歌とモニターに集中しており、ピリッとした空気が流れていた。手元にあるPCには、歌唱中の曲の歌詞と楽譜が表示されている(全曲分用意されている)。
全体のバランスも考慮して選ぶので、本選より予選の審査が難しい部分もあるという。とはいえ、審査員の評価が完全にバラバラになるのは稀で、ほぼ似たような評価になることが多いらしい。

5.本選での紹介コメントは入念な取材から生まれる
現場を見て驚いたのが、プロフィールの入念な取材。まず予選に応募する段階で職業や選曲理由を書くのだが、予選の歌唱後はアナウンサーと担当ディレクターによるインタビューが約200組全員に行われる。
予選を通過した出場者は、そのまま控え室で詳しい自己紹介を書き、それを基にスタッフの面談を受ける。さらに本番当日の朝には、アナウンサーが出場者に再度の取材。生放送での紹介コメントや歌唱後のインタビューは、こうして生まれている。

6.カラオケ大会で生まれる歌のコミュニケーション
予選終了後、審査結果の発表まで約1時間かかる。その間にステージで開催されることがあるのが、予選参加者も観客も参加できるカラオケ大会。
曲目はのど自慢の定番曲を中心にあらかじめセットされており、例えばスタッフが「次は『かもめが翔んだ日』です。歌いたい人は?」と言うと、客席から手が挙がり、指名された人が歌うという方式。
2組を指名することで知らない人同士の歌のコミュニケーションが生まれる、のど自慢らしいカラオケ大会だ。

7.本選出場者は朝5時起き⁉長い一日の始まり
本選出場者の朝は早い。本番当日、出場者向けのミーティングが始まるのは朝8時前。取材日の出場者で最も多かった起床時間は5時だった。ミーティングでは簡単な段取り説明のあと、歌唱順が発表される。
この回のトップバッターは、中1男子の2人組。大役ゆえに、発表の瞬間「ええーっ!」と声を上げていたが、ほかの出場者たちから次々に「頑張れ!」という応援の声がかかり、20組の出場者が「チーム」になり始めていることが窺えた。

8.リハーサルでは1コーラスをフルで歌う
リハーサルは意外にも(?)綿密に行われる。オープニングやエンディングの立ち位置確認のあと、舞台監督を進行役に、軽く通すリハーサル。歌うのは冒頭だけで、ステージに出るタイミングやマイクの持ち方(上部を握ると音がこもる)などをチェックする。
それが終わると、アナウンサーを進行役にリハーサルが行われ、出場者全員が1コーラスを歌いきる。取材日では、本気の1コーラスの歌唱に、舞台監督が思わず涙してしまう一幕もあった。

9.本番直前、「決起集会」でテンションを一気に上げる!
リハーサルを終えると1時間ほどの休憩。出場者はこの時間に弁当を食べる。しかしそのうち別室で発声練習を始める人が現れ、その様子を見たほかの出場者も発声練習やダンスの確認をし始める。昨日まで素人だった人たちが、だんだん「テレビに出て歌う人」の顔になっていく。
本番直前の「決起集会」では、1人ずつ本番への決意表明を叫び、そのたびに全員で「オーッ!」と拳を振り上げ、テンションを高める。本番まで、あと15分。

10.生放送が終わってもステージは終わらない
のど自慢の生放送は13時で終わり。しかし会場ではそのあともステージが続く。司会、ゲスト歌手、鐘の演奏者で記念写真を撮影したあと、特別賞の受賞者とチャンピオンに改めて受賞の感想を聞き、チャンピオンは受賞曲をもう一度、今度は1コーラスを最後まで歌う。
ゲスト歌手も生放送とは別の曲を1曲披露し、会場限定の約30分のステージが終了。観客はこれで終了、退場となるが、出場者にはまだ一つ、大事な行事が残っている。

11.最後にお別れの会をやってお別れ……とはならない⁉
控え室に戻った出場者が最後に行う「お別れの会」。今回の体験の振り返りを、一人一人話していく。中には言葉に詰まって泣きだしてしまう人も。
つい昨日まで他人だった者同士が、一つのチームとなって励まし合いながら一日を駆け抜けてきたけれども、その関係もこれで終わり……とはならなかった。
会の終了後は自然に撮影会に突入し、あちこちで連絡先を交換する光景が。のど自慢が終わっても関係性が続くのが「のど自慢あるある」なのだった。
