誰もが一度は目にしたことがあるだろう「I♡NY」。グラフィックデザイン界の巨匠、故・ミルトン・グレイザーが1976年にニューヨーク州の依頼により制作。その後、“I♡NY”とプリントされたTシャツは世界中に溢れた。
実は2023年、州により「WE♡NY」という新たなロゴに刷新されたという出来事があったのだが、地元市民の大反対に遭い、今も街を代表するロゴといえば「I♡NY」のまま。そんな、ロゴにうるさい?ニューヨーカーたちはどんなTシャツを着ているのか。
ドキュメンタリーフォトグラファーとして15年以上ニューヨークを見つめ、『ニューヨーク・タイムズ』や『ワシントン・ポスト』『ヴォーグ』などで活躍するピート・フォルカーとともにドキュメントする。
Erika Bennett(29)クリエイティブプロデューサー
娘のノリと愛犬と地下鉄のプラットフォームで電車を待っていたエリカ。スリフトストアで見つけたという、〈The Misfits〉のフロントマン、グレン・ダンジグのソロプロジェクト〈Danzig〉のヴィンテージTシャツをカットオフ。「正直に言うとバンドのことは知らなかったんだけど(笑)、グラフィックやところどころにある穴、色褪せ具合も含めヴィンテージ然としたその佇まいはノースリーブでもいいかなって。切ってみて正解だったわ」
Twyla Colburn(19)学生
ワシントン・スクエア・パークで姉を待っているトゥアイラ。彼女が一番好きな博物館だというLAのジュラシック・テクノロジー博物館で2023年に購入したミュージアムTシャツを大胆にカットオフ。「もともとのシルエットがタイトで好みじゃなかったことに加えて、最近クライミングをやっているから、そこでも使えたらいいなと思って切ってみたらほかにはない仕上がりで満足してるわ」
Daniel Merrick(23)服飾デザイナー
ストリートバスケの聖地〈ザ・ケージ〉で食い入るように試合を眺めていたダニエル。兄から譲ってもらったというファレル・ウィリアムスのブランド〈ICECREAM〉のヴィンテージTシャツにバッシュというコーディネート。「動きやすさも大事だけど、ストリートバスケはスタイルも欠かせない。先輩たちもユニフォームとはいえ、それぞれの着方にスタイルがあるからね。2024年中に〈ザ・ケージ〉で試合に出られるように、今日もこのあと猛練習さ」
Sergio Rodriguez(21)大学生
プエルトリコ在住で、現在ブラウン大学でサマーインターンをしているセルヒオ。この日はチェスをしにセントラル・パークにやってきた。「ユニークなグラフィックやメッセージが入ったTシャツが好き」と語るように、着ているのは地元のスリフトストアで手に入れた、アメリカで70年代に大ヒットを飛ばしたおもちゃ「モーラー」がナイフを片手に、「あらゆるものに親切に」と謳うヴィンテージTシャツ。
Jamie Allen(35)弁護士
「ボタンダウンシャツは〈ブルックス ブラザーズ〉、下着は真っ白な〈ヘインズ〉の白Tに限る」と語るジェイミーは住宅法を専門にする弁護士。この日は仕事帰りにクリーニングに出していたスーツやシャツをピックアップしに出かけていた。〈ヘインズ〉の白Tは5枚パックを毎月新調するのがルーティン。「仕事着のルールに関して世の中は緩くなってきてるけど、俺はビシッと決めたいんだ」
Evan Mock(27)俳優
友達とテイクアウトのランチを待っている俳優のエヴァン・モック。スケーターであり、現在はリブート版『ゴシップガール』に出演するなど俳優としても活躍する彼が着ているのは、もらいモノの〈Heaven by Marc Jacobs〉の一枚。「Tシャツ好きで、集めているけど、クローゼットにあるものはワントーンものが多くて。最近このブラウンとグリーンの攻めたカラーリングが気分でよく着てるんだ」
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Billy Edwards(26)ジャズミュージシャン
「いつもパープルばかり着てるよ。この〈ユニクロ〉のTシャツも叔父がパープルが好きだろってプレゼントしてくれた(笑)。着心地もいいし、汗をかいてもすぐ乾くから今日みたいな暑い日にいいね」。ハービー・ハンコック・セクステットでも活躍したベーシスト、バスター・ウィリアムスを師匠に持つビリーは、ステージ前に友人ミュージシャンたちとセントラル・パークで演奏するのが日課だ。 -
Henry Bohan(29)〈Strand Bookstore〉スタッフ
老舗書店のアートブックコーナーで働くヘンリーは、生まれも育ちもNYという、生粋のニューヨーカー。この日着ていたTシャツは、子供の頃に祖母がくれたもの。「8歳くらいの頃、どういうわけかレモンに取り憑かれたように夢中になっていて、その時にグランマがくれたんだけど、20年以上経った今でも着ているし、むしろクタクタ具合が今しっくりくる感じ。思い出の一枚だね」 -
Michael Cummings(38)〈Victoria!〉オーナー、ミュージシャン
現役のミュージシャンとして活動する傍ら、自身のバー〈Victoria!〉をロウワー・イースト・サイドに2022年にオープン。自身が収集しているヴィンテージのバンドTを下敷きに作ったオリジナルは、毎日のように着ているという。「CBGBのようなシンプルでクラシックなロゴTを作りたくて。背面にはビジネスパートナーである妻でアーティストのアレキサンドリア・ターバーのドローイングが描かれている」 -
Ryan Kang(23)ビデオグラファー
セントラル・パークの広場で友人とソフトボールでキャッチボールをしていたライアンが着るのは、スポーツウェアではなく、メロコア確立の立役者といわれる〈Bad Religion〉のヴィンテージ。音楽好きだからかというとそうでもなく、「数年前にLAの古着屋で買ったんだ。ゆったりしたサイズ感だし、黒だから汚れも気にならないし、友達と気楽に体を動かす時にぴったりでね」 -
Nayquan Bracey(31)〈Metropolis Vintage〉マネージャー
ヴィンテージTシャツを数多く揃える〈Metropolis Vintage〉で働くナイクアンは、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアとバラク・オバマの2人のイラストが転写されたTシャツを着ていた。「3XLで、正直全く自分のサイズじゃないんだけど、入荷したのを見てこれは買わなきゃなと。恐らく2000年代初頭に作られた黒人歴史月間を称えるブートTだ。袖と裾をカットして自分の好みのボックスシルエットにした」 -
Kevin Farley(79)アーティスト
トンプキンズ・スクエア・パークに来て、散歩したり、読書をしたり、人間観察をしたりするのが日課だというケヴィン。「12 ST」と書かれたTシャツは自身も住む12丁目にある非営利団体が販売するグッズTシャツだ。「自分が住んでいるストリートが書かれたTシャツって愉快じゃないか?(笑)唯一のこだわりとして、参加したイベントのオフィシャルTシャツしか買わないようにしている。20年以上前のFive Boro Bike TourのTシャツとかも宝物だな」