珍しい花を取り揃えて
環境にも気遣う地域密着型
ブルックリンのブッシュウィック地区にある〈ステムス〉の店内には、ざっと40種類以上の生花が色とりどりに並ぶ。生花の卸値が高いNYで、これだけの選択肢がある店は、実際とても珍しい。
「オーストラリアから届くピンクッションやプロテアのようなほかにないユニークな花を置くようにしています。それにスキューバダイビングが趣味だから、海洋生物の鮮やかな色からも影響されていて。チューリップだとしても街角のデリでは手に入らない特別な形や色を取り揃えています」。そう話すのはオーナーのスザンナ・キャメロン。
様々な色とテクスチャーを惜しみなく組み合わせて生まれる〈ステムス〉のアレンジメントは、「祝福のために打ち上げられた花火」がイメージ。紫と黄色、青とオレンジといった一般に反対色と言われる色を掛け合わせていたりもするのに不思議と一体感があるのは、自然に高く育つ花は高めの位置に置くというように自然の摂理を生かした置き方を取り入れているからかもしれない。
「私はガーデンがそのままブーケになったような作りが好き。NYの今のトレンドは、力強い色の花で、人工的に奇抜な色を花につけるスプレーペインティングも流行ってる。でも私たちはあくまでもナチュラルにこだわりたい。フェノール樹脂を使ったオアシス(吸水用スポンジ)を使うのをやめたり、花をコンポストにしたりして、環境負荷を減らすことも考えながらどこまで面白くできるかが挑戦ね!」
ニュアンス違いが特別な
フラワーデザイナー
チャイナタウンに程近いロウワー・イースト・サイド地区は、話題のライフスタイルショップがポップアップをしたり、若手ブランドのお店がオープンしたりと経済活動再開後とりわけ活気のあるエリアだ。その一角のスタジオを拠点に〈フローラティカ〉の名でフラワーアーティストとして活動しているロビン・ローズは、広告ビジュアル用のアレンジメントを手がける傍ら、オリジナルブーケを作っている。
「個人的には直感的に作られたミニマルな作品が好み。日本のイケバナからももちろん影響を受けているし、朽ち果てる直前のチューリップや、わざと手で開かせたローズなど、ニュアンスを加えて“不完全さ”を演出するのも得意なの」。でも実際に今のNYで求められるスタイルは、大ぶりなものだったり、草花をカラフルに色づけしたもの。そこで彼女は自分の好みとニーズとをミックスするようになったという。
「今日作ったブーケのボトルブラシの葉は乾燥させて上から茶色に染めたものよ。このところずっとクリーンで有機的なものがトレンドだったから、そこからがらっと変わって、80年代のように人工的なものやキャンディカラーを加えて実験的になりたくなるのもわかる気がする。こんな社会情勢だから、せめて家の中では華やかで浮世離れした花が欲しい気分なのだと思う。すべてにおいて過渡期だから、この流れが花業界にも向けられて、花の生産方法や流通の問題についても議論されるようになってほしいな」