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BIGYUKIが案内する、ジャズの聖地・ニューヨーク。変わり続けるシーンの最前線

1939年に本社をマンハッタンに設立し、今もなお刺激的な作品を発表するレーベル〈Blue Note〉。そしてビ・バップやモダンジャズの聖地〈Birdland〉や〈Village Vanguard〉などの老舗をはじめ、大小のクラブが町中にひしめき合っている。今も昔もNYはジャズの町だ。さまざまなスタイルが混在し、常に新しいスタイルが生まれているシーンの魅力を、NYを拠点に活動するキーボード奏者、BIGYUKIに話を聞いた。

photo: Jun Nakagawa / text & edit: Katsumi Watanabe

「NYの面白いところは、小さくてアンダーグラウンドなベニューに人が集まり、グチャグチャな中でライブをやっている最中、自然発生的にハプニングや音楽的な事件が起こる。その中から新しいアイデアが生まれると、狭いエリアの中で噂になり、それがいつしか世界中のトレンドになることが多い。今は配信から、世界中の刺激的な音楽を聴けるけど、NYで面白いのはあくまでもライブの現場。

最近は、ジャズ的なインプロビゼーションと、電子音楽やエレクトロ、アンビエントなどのクロスオーバーが盛んに行われている。この3年間、潰れてしまったベニューもあるけど、なんとかサバイブして、面白いこと続けているお店に元気が戻ってきています」

最近ではドラマーのアントニオ・サンチェスのバンドや、ホセ・ジェイムズのツアーに同行し、世界中を回っているため、留守にすることも多いというBIGYUKI。まずはNYにいる時には必ず行くというホームを紹介してくれた。

「〈The Jazz Gallery〉は、サックス奏者のエリック・ハナムら、話題沸騰中の音楽家から、今後活躍が期待できる新進気鋭まで、バラエティに富んだラインナップが楽しめる。音楽が最高なのはもちろん、僕が友達の演奏を聴くため、入口の列に並んでいると、先に入れてくれたり(笑)。互助会というか、シーン内に助け合いの心がある。そんなところに触れると、今はNYがホームだと実感します」

そして、縁深いクロスオーバーシーンを支える〈Nublu〉。

「10年以上前から、激レアなライブを観ているんですよ。例えば〈Blue Note〉と契約前のホセ・ジェイムズのトリオ時代、スイス出身のドラマーのジョジョ・メイヤーが率いたナーヴというバンドなど。最近はザ・ルーツの鍵盤奏者、レイ・アングリーが主宰するジャムセッション『Producer Mondays』が盛り上がっていて。NYアンダーグラウンドの一つのハブになっています」

商業主義にはなびかないベニューの強固な姿勢

物価や家賃が高騰している昨今のアメリカ。NYの音楽家たちの暮らしにも、もちろん影響を与えている。そこでライブハウスの運営側も、新たな試みを実践している。

「〈Nublu〉は数年前に移転しましたが、新店舗の場所はクラブオーナー自身の持ちビルです。経営者の不動産の先見の明に頭が下がる(笑)。バカ高い家賃のために商業的に堅く採算が取れる観光客目当ての公演を入れることなく、ひたすら実験的かつ面白いミュージシャンの利益をハコ側が担保し、ブックキングし続けている。強固な姿勢が顧客の支持を強め、次第に噂が広まり、新しく訪れる人も増えてきています。真っ当なことですが〈Nublu〉ほどのハコではなかなかなかったこと。今後にも期待したいと思います。

一方、最近は違う問題も出てきました。〈Nublu〉の店舗付近は、近年地価が高騰したせいで再開発が進み、いきなり豪勢なレストランやレジデントアパートが立ち並んだりして。昨年、ライブ前のリハーサルで、シンセサイザーのベース音を思いっきり上げてみたら、スタッフから止められて。理由を聞くと、どうやら新しく転居してきた近隣住人から苦情が来るらしいんです。NYの新しい葛藤ですね。今後は騒音にも気をつけないと……」

しかし、NYの刺激的で、新しい音楽の動きは止まらない。

「〈Zinc Bar〉は、以前からジャズの即興演奏とヒップホップのフリースタイルをクロスオーバーさせています。2000年代中頃、超満員の中でぎゅうぎゅうになりながらロバート・グラスパー・エクスペリメント・バンドのステージを観て衝撃を受けました。それからバークリー音楽院の同級生だった友人が、数年前までオーガナイズしていた毎週火曜日のジャムセッション(現在は終了)が熱くて、遊びに行っていました。

まだ新しいため、あまり紹介されていない〈LunÀtico〉もいいな。とにかくご飯とお酒がおいしい(笑)。ステージもないような店内で、ドラマーのネイト・ウッドや、ピアニストのレオ・ジェノヴェーゼがライブをやっている。売れっ子になっても、好きなように実験的な演奏をさせてくれるベニューはありがたいもので。東京で言う〈エレクトリック神社〉や〈No Room For Squares〉みたいなお店ですね。持続可能な小さいシーンも健在です」

新星が登場し始めたコンテンポラリーなジャズ

では、BIGYUKIが今後注目するのは、どんな人だろうか。

「演奏スキルと独創的なアイデアのある、どこか毒のある人に惹かれますね。最近、NYからシアトルへ引っ越しちゃったけど、ドラマーでラッパーのカッサ・オーヴァーオール。彼が参加したトランペッターのシオ・クローカーの『Blk2Life || A Future Past』も素晴らしかった。チック・コリアと共演したドラマーのマーカス・ギルモアのエレクトリックへの向き合い方も最高だった。

ホセ・ジェイムズのバンドで共演していたドラマー、ジャリス・ヨークリーも面白いアイデアを持っていて、一緒に曲を作る予定。最近はクロスオーバーばかり聴いていたんだけど、またコンテンポラリーなジャズも面白くなってきた。2022年にヨーロッパのフェスで一緒になったアルトサックス奏者、イマニュエル・ウィルキンスとバンドの演奏にはぶっ飛ばされました。インプロビゼーションの中でも、新しい言語が生まれていると感じました」