新・ニッポン観光:新たなクリエイティブの風を感じる奈良(吉野・天川)へ

奥大和の名で呼ばれることが増えた奈良南部と東部の一帯。山あいの豊かな自然と信仰が粛々と受け継がれてきた地に今、木工作家をはじめとしたクリエイターが集ってきているという。どんなモノ作りが繰り広げられているのか、まずは東吉野村にあるシェアオフィスへと足を運んだ。

Photo: Kiyoshi Nishioka / Text: Mako Yamato

日本の原風景と融合する
作り手たちの息吹

村の事業として2015年に誕生した、シェアオフィスにコーヒースタンドなどを併せ持つ〈オフィスキャンプ東吉野〉は、移住者を中心としたクリエイターの拠点。ここをきっかけに様々な人が集まってきているという。

今回、案内をお願いしたのは運営者の一人で、プロダクトデザイナーの菅野大門さん。「吉野杉や吉野檜で知られるように、この界隈は木材の町。とりわけ注目してほしいのは、吉野ならではの創作に取り組む木工作家たち」と言う。

吉野川の対岸から見る〈吉野杉の家〉
穏やかに流れる吉野川の対岸から見る〈吉野杉の家〉。建てられてから4年が経ち、苔むした屋根が自然と調和している。1階は吉野杉に囲まれたコミュニティスペース、2階は吉野檜で造った屋根裏部屋が2つある。

まず向かったのは森幸太郎さんの工房〈木工 森〉。森さんは修業中に知った吉野杉に惹かれてこの地へ。鉋だけで仕上げた椅子やテーブルは触れば、しっとり滑らか。木が持つ温もりを体感できる家具だ。続いては、型を使わず曲木家具を作る平井健太さんの工房〈studio Jig〉へ。吉野では古くから木材を薄く削る技術が発達していたことから、この地を選んだという平井さん。スライスした薄い吉野杉を曲げて作った家具は木目も美しく優雅。ここでしか生まれ得ない作品だ。

最後に訪ねたのは〈MoonRounds〉渡邉崇さんの工房。先の2人と違って渡邉さんは、入り皮と呼ばれる樹皮が中に入り込んだ見た目的にはよくない状態の木や広葉樹を使い、家具から小物までを作る。三者三様の木工作家たち。「彼らの工房を訪ねるには事前に連絡が必要ですがぜひ。実物の存在感は想像以上だから」と菅野さん。作り手の人柄と作品を通し、奥大和の魅力を実感できるはずだ。

木材にまつわる話はまだまだ尽きない。吉野川のほとりに立つ〈吉野杉の家〉は〈Airbnb〉と吉野町、建築家の長谷川豪が吉野の木材の魅力を伝えるべく建てた木の家。木の温もりを体感しながら、ぼんやりと川を眺めるのは贅沢このうえない時間。ここでの宿泊を目的に、世界中から旅人が訪れるのも大いに頷ける。

遡れば吉野へは古から多くの人々が足を運んできた。古事記や日本書紀には神武天皇が通ったとあり、万葉集にも100首近くの歌に詠まれている。離宮として吉野宮が設けられ、平安時代になると役行者が修験道を開基。その修行の場としての厳かさは吉野山の金峯山寺や女人禁制の修行場である大峯山などの霊場に、今もしっかりと受け継がれている。

幻想的な姿を見せる吉野山の夕景を眺めたら、翌朝向かう先は天河大辨財天社。紀伊山地の霊場を結ぶ三角形の中心に位置することからパワーに満ち、再生・蘇りの場として信仰を集めてきた。さらに修験者は大峯山脈の険しい尾根を踏破し、熊野へ向かったという。厳しい修行に思いを馳せつつ、奥大和に流れる穏やかな空気に包まれ心は穏やかに。再訪が待ち遠しくなる旅のひとときだ。