野生動物の気配を身近に感じながら
原始のままの自然の中に身を置く
「日本語が通じるいちばん近い外国」。これが古川さんが根室に惹かれた理由だ。釧路空港から車で約2時間半、なだらかな丘陵地帯はどこかヨーロッパの片田舎のような趣で、徐々に植生も変化していくことに気づく。
「根室は原始のままの自然や動物の気配が、僕らの暮らす生活圏内にあるんです」。ここにはお金をかけずとも存分に楽しめる自然スポットがたくさんあるという。
フライフィッシングのエキスパートとしても知られる古川さんいわく「釣りは一日中、一年中楽しめるアクティビティ。春秋は川釣り、夏は海釣り、冬には凍った湖でワカサギ釣り」が基本だそうだが、温根沼周辺は、夏場でも川釣りができる。「このあたりは初心者も釣りやすい小川が多いので、自分なりにスポットを探してみましょう」。そう言うと川に入り、数分もたたないうちに何匹も川魚を釣り上げていた。
次の日は、根室半島のドライブへ。ラムサール条約湿地である春国岱、風蓮湖で、高山植物や塩生植物、野鳥を観察。その後向かったのは太平洋に突き出した落石岬。ここは「ヨーロッパのような風景」といわれる北海道三大秘岬の一つ。灯台まで約600m、その木道の両側にはアカエゾマツとミズバショウが鬱蒼と広がり、まるで太古の森のよう。
森を抜けると、目の前は一気に開けて、青空と緑の草原の中に、紅白の灯台がポツリ。その先は海になっていて、高さ40mの断崖絶壁に。近くにいたエゾシカの親子と目が合う。親は警戒しているが、仔鹿は無邪気に飛び跳ねている。やがて晴れていた空が一気に曇りだし、1時間もしないうちにあたりは海霧に包まれた。
別当賀のフットパスもまた「日本とは思えない絶景。北ヨーロッパとニュージーランドを足して割ったような場所」だという。別当賀パスは往復10㎞、牧草地を歩き、海まで抜けるウォーキングコース。足元に咲く高山植物を愛でながら、放牧馬やタンチョウと出会えることも。
小高い丘を登った先は大草原が広がっている。案内板には「中央を前方へ進んで」とあるが道はない。つまり「好きなルートをご自由に」ということか。良い意味での“ほったらかし”が心地よい。ふと空を見上げれば巨大なオジロワシの姿。根室はとにかく空が広い。視界の広さに圧倒されながら、道なき道を歩くこと1時間、ようやく太平洋に出た。
「根室はアクセスも良くないし、有名な観光地でもない。でもだからこそ、手つかずの自然が残る。自然の循環の中に人間の営みがきちんとある。稀少な場所です」。人も自然の一部。そんな当たり前のことに、五感を澄ますことで改めて気がつくことができる。それが根室なのだ。