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未来へ、灯をつなぐ物語。香港の失われつつあるネオン文化を描いた映画『燈火は消えず』が公開

香港から失われつつあるネオン文化の伝統を描いた映画『燈火は消えず』が全国順次公開中。中華圏で活躍する新旧世代が、この映画に込めたメッセージとは。

text: Mikado Koyanagi

香港のイメージというと、あの「100万ドルの夜景」を思い出す人は今も多いだろう。ところが、その夜景を彩ったネオン看板が、すでに香港の街から9割方なくなってしまったことをご存じだろうか。

2010年の建築法等の改正以後、ネオンだけでなく、あのジャッキー・チェンのアクションでも使いまくられた、通りにはみ出した看板も街から消えつつあるのだ。それは、今の香港の自由をめぐる状況の写し鏡になっていると言ってはうがちすぎだろうか。

現在公開中の映画『燈火(ネオン)は消えず』は、ネオン職人だった夫に先立たれた妻が、娘の言うことも聞かず、夫の最後の弟子の若者と、その灯(ともしび)(伝統)を絶やすまじと奮闘する姿を描いた映画だ。この映画が製作された頃が、ネオンの撤去がピークを迎えた頃だという。

これが長編デビュー作となる監督のアナスタシア・ツァンは、それを「親友が自分から離れていったような感覚」だったと述懐している。中にはCGで再現されたものもあるにせよ、映画に出てくるネオン看板の映像は、後世への貴重なアーカイブ(記録)ともなるものだ。

その伝統の受け渡しは、キャスティングにも顕著に表れている。ネオン職人の夫を演じたのは、ジョニー・トー作品などでも知られるサイモン・ヤム。現役の職人の指導を、何と1週間も受けてこの作品の撮影に臨んだという。

そして、主役とも言うべき妻を演じたのが、監督としても数々の名作を作っている名優シルヴィア・チャン。台湾金馬奨で見事3度目の最優秀主演女優賞に輝いた。

一方で、娘役を演じるのは、先に公開された『香港の流れ者たち』でも重要な役どころを務めている、今注目の新世代の中華圏俳優セシリア・チョイだ。

そのように、この作品は単なるノスタルジーを超えて、新旧世代が、香港の未来へと手を携えながら進んでいこうとするポジティブなメッセージが伝わってくる映画なのだ。