沖縄、宮古島。そこはいつの間にかナチュラルワインの楽園でした

知ってましたか?今、飲んでいる店も向かいの店も、いやその先も、気づけばみんなグラスを傾けて、ナチュラルワインを飲んでいる、楽しんでいる。泡盛やビールだけじゃないんです。人口わずか5万人少々とは思えないその密集ぶり。島ではもう20年ほど前、ある一軒のバーに始まり、次第に広がって、今や日常になくてはならない飲み物になっているとか。ナチュラル好きなら、今行くべきは宮古島だったのです。

初出:BRUTUS No.962ナチュラルワイン、どう選ぶ?』(2022年5月16日発売)

photo: G-KEN / text: Mitsuhiko Terashita

すっかり島の日常と一体化した、ワインのある風景

島の中心部、徒歩で回れるエリアに、ナチュラルワインをメインにしたバー、レストラン、カフェに酒販店まで、新旧なんと10軒以上。繁華街といっても大半の建物が昭和のゆる~くひなびた風情。なのに東京や大阪でも、こんなに密度の濃いエリアがどれだけあるだろうか。

「実は僕も、それに驚いた一人なんです」とは、今年3月、西里地区に〈ノーシャン宮古島〉をオープンさせた辰畑宏一さん。ゆったり300㎡ほど、緑深い木々が茂る庭に、DIYで作ったツリーテラスを備えた、一軒家のワインバーだ。もともと神戸で、海に面した3軒のダイニングを成功させ、続く4軒目はまさかの宮古島店。

「シュノーケリングに来ていたらこの充実ぶりにもう驚き、感激して。僕自身も島に移住してきたんです」。セラーには神戸時代から10年以上も熟成させていたというボトルもちらほら。宮古島の海のように輝くワインを、潮風が届くオープンテラスや、緑の茂るツリーテラスで楽しむ心地よさはどんなだろう……という夢が現実になったようなニューオープンだ。

そのすぐ近くの〈カフェ ウエスヤ〉は、建築家の自邸だったという建物を2019年に改装。緑の美しい中庭を囲むスペースでは、「ほっとする優しい味で、一日の最初の一口から幸せを感じられる、アルザスをどうぞ」と、これも島へ移住してきたという羽地由華子さんが注いでくれる。

それは、1999年。ある一軒のバーから始まった

〈カフェ ウエスヤ〉から南東に歩いて数分。外壁に小さくフクロウが描かれたこの一軒こそが、島にナチュラルワインを運んだルーツとなるバー〈ボックリーのチョッキ〉。店内の壁にさりげなく書かれたサインは、この世界では始祖とされる造り手の一人、フランス・ジュラ地方のピエール・オヴェルノワが2018年に訪れて残したものだとか。

開店は1999年。初期から彼のワインをグラスで出していたというから驚くが、それもインポーターのスタッフの妻が宮古出身という縁だそう。

現在、2代目オーナーとなる鴇澤研二さんも、当然ワインは100%ナチュラル。ストックは約500本あるが、客のほとんどは「今日のおすすめは?」というノリで、その信頼が伝わってくる。

もちろん、料理としっかり合わせて楽しめる店も多数。2019年オープンの〈ピッツェリアクラウン〉は窓際に、イタリアからはるばる運んで据え付けた薪窯が。ピッツァはもちろん、石垣牛ハラミの薪窯焼きなど、セコンド・ピアットも目移り必至だ。

オーナーシェフ・高野貞人さんは「理屈抜きでおいしいものを!と選んでいくと、ナチュラルになりましたねぇ」と気負いない。リストはロゼやスパークリングが充実し、明るい島の空気にもぴったり。

ワインホッピングの〆にはバー〈酒と旅 ガリンペイロ〉へ。〈ボックリーのチョッキ〉先代店長だった砂田文生さんが2011年に独立した一軒だが、「カラオケのないスナック、かなぁ。ワインバーって言ったとたんハードルが高いと思われるとワインがかわいそうだしねえ」と笑いつつ「ほら、魔法水みたいでしょう」と、この夜はアルザス、ローラン・バーンワルトのシルヴァネールを注ぐ。

それでもまだ飲み足りない?ホテルでも、次の日はビーチでもワイン?ならば、ということで向かうはワインショップ。2019年にオープンした〈コートドール 宮古島〉はオーナー須藤圭さんが「泡盛党だってワイン好きに変えちゃうようなナチュールを!」と、気持ちを込めたセレクション。

島の老舗〈エノイチ酒店〉は、一見すると普通の酒屋だが、奥に進めば倉庫の中にワイン用の大型保冷庫があり、ぎっしりボトルが約150種類。気分に合った一本を探す楽しみもある。

そんな島の風景の中から、印象的な一言。「宮古の人は大体、これはナチュラルだとか、そうじゃないとか、意識してません。ただおいしい酒だと思って飲んでる。あの店で出てくるワインはなんだかいいなぁ、くらいの感じで通ってくれてます。時々〝お前はワインの説明をしない、理屈を言わない。そこがええんじゃ〟って言われます」という〈ガリンペイロ〉砂田さんの言葉。まさに島の人たちの心と舌に選ばれ、愛され、素直に広がったのがわかる。

やはり、もうワインは考えなくていい、覚えなくていい。そういう楽しみ方を、この島の人たちはもう自然に知っていたのだ。

〈ノーシャン宮古島〉外観

カフェ ウエスヤ

昼はアジアン宮古そば980円ほか。夜はスモークマグロのボロネーゼなど、宮古の大地と海の素材を活用したコース3,850円〜。グラス6種くらい770〜990円。

ボックリーのチョッキ

オーナー鴇澤さんは、フィリップ・ジャンボンやジェローム・ジュレの自宅やカーヴも訪問。今日もセンスのいい日替わりワインを次々と抜栓。酒販もあり。

ピッツェリアクラウン

白とブルーがキーカラーで開放感たっぷりの一軒。店名を冠したピッツァ「クラウン」2,750円は、宮古産チェリートマトの弾ける香り。「これは白もいいけどぜひロゼと!」とオーナーの高野さん。「十分に熟成させて美しさがアップした一本を」とウォークインセラーはゆったり、600本入り。徒歩2分ほどの場所には1号店〈ビストロ・ピエロ〉も。

酒と旅 ガリンペイロ

「ワインは苦手で、という人が、よくうちの一杯で転向してくれるね」と店主の砂田さん。旅を感じさせる選曲もいい雰囲気。

コートドール 宮古島

〈コートドール 宮古島〉店内

ナチュラル400種を含む計1,000種を揃える新しいワインショップ。

エノイチ酒店

〈エノイチ酒店〉外観

昭和の気配が残るエリアの一角。店奥に、実はどっさりとワインを揃える老舗。