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大人に愛される酒場に必要なもの〈なかむら一門〉の師弟鼎談〜後編〜

酒場とは、酒と料理を介して、学び、伝え、繋がり、続く場所。「〈なかむら一門〉の師弟鼎談〜前編〜」も読む。

Photo: Keisuke Fukamizu / Text: Haruka Koishihara

氷の話しかり、〈なかむら〉出身の店はどこか共通点があるといわれますが、それは中村さんの美意識や「いいと思うこと」を共有できているからなんです。

柿木

中村さんには「いいね!」「だめだ」しか言われないので、何が良くてどこがだめなのかは、自分で考えなくちゃいけない。その繰り返しが、美意識を身につける訓練になったと思います。

中村

目の肥えた大人のお客様にOKをいただけるかどうかは、店側に確たる美意識があるかどうかですから。盛り塩、打ち水、身だしなみ……。
(カウンターを触り)この素材は何?

柿木

ケヤキの一枚板です。

これぞ“中村イズム”ですね。自分も「カウンターや器、お客さんの手が触れるものにはお金をかけろ」と言われました。箸や箸置きが、横から見て一直線にセッティングされているかも厳しい。

中村

よく「近視眼」と言っているけど、触れる、近くで見るものを重視。天井は気にしない(笑)。

感触のよさは居心地のよさに繋がりますからね。そう思うと、中村さんから学んだことは料理ではなかった、とよく思います。

中村

うちは今、女房が社内で金継ぎを教えている。カウンターにも3年に1度カンナをかけて。
やっぱり器や設えや食材を大事にしてるっていう思いがそういうところからも伝わるから。(ここでカルパッチョが登場)このお皿は?

白石貴之

フィンランドの〈イッタラ〉のガラス皿です。

中村

刺し身にこの皿、いいねえ。これはどうやって食べるの?

白石

上のグリーントマトとトウモロコシのソースと一緒にどうぞ。

柿木

魚は天草のカンパチです。

中村

薄く切っているのもいいね。のぶにこんな繊細さがあったとは。

柿木

白石さんにフレンチの経験があって。〈eatrip〉にいたんです。

中村

それは強い武器だね。
僕は、さっきから「武器が大事」って言っているけど、同じくらい大切なのは謙虚さだと思う。小さな酒場の主人は謙虚で、人を喜ばせるのが好きで、お客さんが来ると自然と笑顔になる“人たらし”じゃないと。その点、高太郎はばっちり。

源流は中村さんです!

中村

そう、僕も“たらし屋悌二”って呼ばれていた(笑)。

ただ、この「たらす」って褒め言葉なんです。いかにお客さんに「この人の店に行きたい」って思わせられるかだから。酒場は人ありき。店主と同じ空間で時間を一緒に過ごす喜びを感じてもらって、自分も共に喜び合えるのが理想的。

柿木

わかります。高太郎さんからも常々言われていましたし、自分が本当に喜んでいないと見抜かれてしまうと思いますし。

大人に愛される酒場には
「武器」と人柄、会話の間合い

中村

(肉団子を食べながら)
いや〜、高太郎の店よりおいしいんじゃない?(笑)黄身だけ入れたのか。さらっと凝ってるなあ。

柿木

これは、みんなが好きそうなメニューとして考えました。

中村

〈なかむら〉のコロッケ、〈高太郎〉のメンチカツみたいな名物になりそうだな。こういう、経験値の高い大人をくすぐりつつ、ほっとさせる一品は大事だね。

僕らの目標は、大人を満足させて、愛される酒場ですから。

中村

そして究極は、気が利いて、先が読める、サービスのできる料理人であること。でも、うちの卒業生はだいたいそうだと思います。サービスと身だしなみについても、しつこく注意しています。

若いとき、本当によく「気が利かない」って叱られました。お客さんとの会話にしても、とにかく間合いに厳しい。

柿木

電話の出方もめちゃくちゃ言われましたよ。「違うよ、のぶ、今のタイミングは!」って。

中村

当然。電話って、お客様との最初の接点。独立したらわかるけど、来ようって電話してくれるだけで、死ぬほど感謝なんだよ。それにしても、新卒で入って10年同じ店にいたのは、今まで高太郎だけ。やっぱり、偉い!

大声で言ってください(笑)。

中村

文句一つ言わず、店を流行らせて、お客さんともちゃんと繋がってかわいがられて。

一ヵ所に10年いたからこそわかったことがたくさんありました。

柿木

僕も9年いましたが、一番よかったのは、立ち上げから一緒に経験できたことです。

中村

それは大きいね。

最初の2年間はほぼ家に帰らず、2人でベンチシートで寝ていましたから。あれだけしんどい状況が続くといなくなる人間も多い中、骨のあるやつです、のぶは。

柿木

「お客さんのことを思いながら丁寧にやろうぜ」って、毎日のように言われていたので。あの時期があったから、この先何があっても耐えられると思います。

9年間ずっと横にいたから価値観のすり合わせができましたし。

中村

だから2人は似てるんだな。

柿木

「独立のタイミングはお客さんが決めてくれるよ」と高太郎さんに言われていましたが、実際、8年目くらいから「のぶ、そろそろやらないの?」と声をかけてくれるお客さんがいて、開店したら皆さん早々に来てくださって。

中村

高太郎が僕と10年やって、その後のぶが高太郎と10年弱やったのか。
いや〜、最高。のぶはよく頑張っていい店を作った!

こうしてバトンを繋いで、一軒でも光る酒場ができると、街に明かりが灯ってお客様も喜ぶし。

柿木

ありがとうございます。僕もまず、この店を長く光らせ続けられるように頑張ります。