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繋がる名酒場バトン、3代が語るその秘訣〈なかむら一門〉の師弟鼎談〜前編〜

酒場とは、酒と料理を介して、学び、伝え、繋がり、続く場所。

Photo: Keisuke Fukamizu / Text: Haruka Koishihara

2020年5月にオープンした〈松濤 爛缶〉。店主の柿木信浩さんは、渋谷〈高太郎〉の立ち上げから9年にわたって二番手を務め、料理人仲間の白石貴之さんを誘ってこのほど独立。

今日は、師匠である〈高太郎〉店主の林高太郎さんが、自身が10年間仕えた〈並木橋なかむら〉のオーナー、中村悌二さんを連れて訪問しました。

中村さんは、現在、東京で7店舗の人気酒場を経営。その卒業生たちが、今の酒場シーンを面白くしているともっぱらの評判です。中村さんから見れば孫弟子にあたり、林さんから見れば愛弟子の柿木さんの店は2人にどのように見えるのか。

また柿木さんは、師匠や大師匠の言葉をどのように聞くのか。酒と料理を媒介に、〈なかむら一門〉の師弟鼎談が始まります。

「なかむら一門」の師弟鼎談
松濤 爛缶(しょうとう・らんぷ)
近年、小体ないい店が登場している松濤エリアに、2020年5月に開店。「ショウトウ(消灯)の街にぽつりと灯る明かりのような酒場になれたら」という思いで“ランプ”という屋号に。早くも人気だ。

繋がる名酒場のバトン
3代が語る、その秘訣。

林高太郎

中村さん、ここに来るのは今日が初めてですよね。

中村悌二

のぶ(柿木さん)としゃべった記憶が、はっきり言ってあんまりないんだよなぁ(笑)。

僕と一緒に面接しましたよ。

柿木信浩

東京の居酒屋で働きたくて、〈東山KAN〉に食べに行ったら格好よくて「ここで働きたい!」と。翌日電話して、中村さんと、店長だった高太郎さんに面接してもらいました。

配属された〈山都〉で1年半。その後9年〈高太郎〉さんを手伝いました。こちら、1品目は、さつま揚げです。僕が鹿児島出身なもので。

中村

ありがとう。
独立するときに大事なのは「自分のネタはあるのか?」ってことだよね。

武器になる個性ですよね。

中村

そう。例えば、のぶなら「〈高太郎〉に長年いました」というネタは、信頼度がぐっと上がるし、さつま揚げを出すときに出身地を言い添えたのもいいね。

柿木

2品目は、落花生を発芽させたピーナッツもやしです。

中村さん、これ絶対好きですよね。シンプルで。

中村

めちゃくちゃおいしいよ。ひと手間かけてあるし。どこ産?

柿木

福岡の能古島です。

中村

各地のこういう食材を取り入れて、生産者の思いを伝える役割があるよね、酒場には。料理に関しては「シンプルに、でも自分の思いを込めたひと手間をかけろ」と言っています。そうじゃないと、いい酒場にはならない。

お客さんに楽しんでもらうための大切な要素ですね。そうした思いを伝えるためにも、カウンターがあることも重要です。

ポイントは、カウンターに
飲料、一品、美意識の伝承。

中村

当然!カウンターのない酒場なんてあり得ない。僕はもともとバー出身だから、余計にそう。あと、うちにいた人間はみんな、飲み物の氷は店で割っているはず。

はい、うちもそうです。

中村

ここ、氷用の桶はある?

柿木

はい(と差し出す)。

中村

ちっさ!それ、酢飯用じゃないの?(笑)

柿木

これがちょうどよくて。

中村

おいしいドリンクを作るには、氷を割って締めるのがいい、ってことが、わざわざ言葉にしなくても伝わっているんです。

柿木

続いてポテトサラダです。

中村

乗ってるねえ、サバ(笑)。

これものぶの武器なんですよ。

中村

メニューをチェックするときに、僕が一番気にするのは食材の組み合わせですね。
ポテサラにキュウリ入れただけじゃあ、話にならないじゃない。高太郎は卵を乗せた。のぶはガリを混ぜて、サバを乗せた。こういう発想が、お客さんに「面白い」と思わせる。

名刺代わりになる一品を作れ、とはよく言われました。

中村

料理の試食は実は一切しないんだけれど、そういう視点と料理名、あと季節感がある内容かどうかは、うるさくチェックします。