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サカナクション・山口一郎、中森明菜の楽曲の魅力を徹底分析 〜後編〜

今、若者に一番熱く語られる存在、中森明菜。80年代に歌手としての絶頂を極め、今年デビュー40周年を迎える彼女の楽曲の魅力を、明菜ファンとして知られるサカナクション・山口一郎が分析する。

text: Motohiro Makaino

さらに、この時代のアイドルでは珍しく、セルフプロデュースに長けていたことも、アーティスト性を高めていった要因の一つ。

「北ウイング」の康珍化=林哲司コンビの起用は明菜自身の希望であり、タイトルも彼女の提案で決定したという。衣装も曲ごとのイメージを作っていったそうで、「SAND BEIGE−砂漠へ−」ではエスニック風、「DESIRE −情熱−」ではボブのカツラに着物+ハイヒール、「TATTOO」では真っ赤なボディコンなど、斬新な衣装は毎回、話題を呼んだ。

この時期、明菜の歌唱法は、強烈なビブラートを効かせたロングトーンとウィスパーボイスとを一曲の中で使い分けており、その点に関して山口さんは「オケを優先して歌をコントロールしているのはすごい」と絶賛。

また、彼女の耳の良さに関して、山口さんは非常に象徴的なエピソードを披露してくれた。
「ステージ上の音をコントロールするモニターについての話を聞いたことがあるのですが、(明菜は)すごく耳が良くて歌っていて、帯域の何ヘルツを切って、と言ってくるほどだったらしいです」

ミュージシャン・山口一郎

一方で、アレンジ際立つカバー曲も見逃せない。87年の「難破船」は、加藤登紀子が明菜にぜひ歌ってほしいと提供した曲。ささやくような歌唱法を極限まで突き詰めた、独自の解釈によるカバーは、加藤版とは全く異なる印象を受ける。本曲について、山口さんの印象的な発言がある。

「中森明菜さんは自分の言葉で歌っている、本当に一流ですよね。歌うということに対して、人生を受け入れていないと、ここまでの歌い方はできないと思います」

80年代の中森明菜は、どんなに難しい楽曲でも、完璧に自身の中に取り込んで表現し、その歌の主人公を演じ切ってきた。

山口さんは彼女の歌を聴くことで、「すごく人柄がわかった。彼女のような歌手は、今の時代生まれにくいんじゃないかな……とすごく感じます。ここまで“歌手になりたい!”と思う人がいないんじゃないかな」と、そのすごさに感嘆していた。

アーティスト“中森明菜”を知る:1
完成度高すぎな
スタジオアルバム。

シングルが注目されることも多い中森明菜だが、アルバムも見逃せない。
4枚目の『NEW AKINA エトランゼ』あたりから音楽的にコンセプチュアルな作品作りが始まり、音楽性が急激に高まったのは7作目の『BITTER AND SWEET』から。角松敏生や神保彰らフュージョン系アーティストを作家陣に迎えた。

続く8作目の『D404ME』では忌野清志郎や大貫妙子ら作家陣、井上鑑、後藤次利、久石譲、清水信之といったアレンジャーの起用により、ニューウェーブ色の強い作品に仕上がっている。
10作目の『CRIMSON』は、竹内まりやと、「恋におちて」の小林明子が5曲ずつ書き分け、OLの日常といった世界を繊細な歌唱法で歌い込む。

11作目の『Cross My Palm』に関しては全曲英語詞によるNY録音を敢行。12作目『Stock』は文字通り、過去のシングル候補曲を集めたもので、いずれのアルバムもそれまでの歌謡曲の枠組みを越えた意欲的な内容だ。

80年代の傑作アルバム4選。

『BITTER AND SWEET』(1985年)
『D404ME』(1985年)
『CRIMSON』(1986年)
『Stock』(1988年)

アーティスト“中森明菜”を知る:2
カバー曲から見られる
明菜的解釈。

中森明菜が最初にカバーに挑んだのは、加藤登紀子作の「難破船」。この曲でも顕著だが、オリジナルの歌唱に忠実に歌うのではなく、彼女なりの解釈で一度自身の中に取り込んでから表現するのが、カバー作品への接し方。

明菜が本格的にカバーに挑むのは、1994年にリリースされた全曲カバーアルバム『歌姫』から。数百曲の候補から絞られた9曲を、千住明率いるフルオーケストラとの同時録音。奥村チヨの「終着駅」からカルメン・マキ&OZの「私は風」に至るまで選曲の幅は広く、その抑制された歌い方で、昭和歌謡の名曲に新たな息吹を与えている。

この『歌姫』はシリーズ化されたほか、「天城越え」「舟唄」など演歌を歌った『艶華−Enka−』や、ムード歌謡、フォーク、果ては洋楽ディスコのカバー集『Cage』に至るまで、カバーを通してあらゆる作風に挑む姿勢は、多様な音楽を吸収して成長する「歌謡曲」というジャンルそのものの体現と呼べるのではないだろうか。

提供者によるセルフカバーも必聴。

「STAR PILOT」忌野清志郎
「飾りじゃないのよ涙は」井上陽水
「駅」「OH NO, OH YES」竹内まりや