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「こんばんは、中島みゆきです!」がオールナイトニッポンに帰ってきた!

2013年4月から、月に1度だけ日曜日の深夜3時に不定期で放送を開始した『中島みゆきのオールナイトニッポン月イチ』。伝説のパーソナリティ復活の現場に潜入した。

illustration: more rock art all / text: Ai Sakamoto

ハガキの表情に合わせて、
読むトーンを自在に変える歌姫。

2014年1月12日深夜。
日曜から月曜に日付が変わったばかりの東京都心は静まり返っている。

ここは、ニッポン放送にある生放送用スタジオ。中を覗き込むと、中島みゆきが赤いジャケットを着て、スタッフと打ち合わせをしている。赤が好きだという噂は本当だったのだ。

そして緊張の一瞬、潜入のご挨拶へ。
「まぁ、こんな深夜にご苦労さんなこと。誰が最初に白目むいて倒れるかよね〜」。中島みゆき最初のジャブは、その昔、ラジオで聴いたあの口調そのままだった。

03:00

「3時になりました。こんばんは。中島みゆきでございます!」。

静寂を切り裂く、底抜けに明るいテンションで番組は始まった。お馴染みのテーマ曲の後には、ネット9局のリスナーへの出席確認。「じんわり増えてめでたいこと」と中島も喜ぶ。

投稿はハガキのみ受け付けだが、一部コーナーはメールも可。放送中に働いている人からのお便りを紹介する「真夜中に働いています!」と近々大切な用事のある人からの「今週のヤマ場」。
この日は夜中に働いている人の例に、われわれ取材班も加えていただき得した気持ちになる。

03:16

誰も聴いていない真夜中、胸の内を告白する「真夜中の告白」コーナーに、年始ならではの正月ネタが登場。サラミやさきイカ、チョコレートなどの入ったおせちが話題に。

「手書きのハガキいいなぁ、好きだなぁ」と自身が言う通り、ハガキを読む時の中島は生き生きしている。
内容はもちろん、筆跡や書き方などに合わせて、声の大きさや抑揚、トーン、声色を変えて紹介。どれも歌い手としての中島みゆきとは違うキャラクターだが、自在に変化するという点では共通しているか?

ハガキを読む際、めくる音や机の上でトントンとまとめる音を出すテクニックも健在。
87年最終回のゲスト、デーモン小暮が「上柳アナが言っていた」と指摘したが、そうすることで台本ではなく、本当にハガキを読むライブ感を伝えているという。

03:52

冒頭で募集した「真夜中に働いています!」に、続々とメールが到着。
電気関係の緊急トラブルに備えて24時間勤務の人、牛乳宅配、新聞配達、バーテンダー。8時40分〜翌8時40分の勤務に対して「なんで40分なの?30分とか8時になんないの?」と細かい突っ込みも忘れない。

師岡とおる イラスト
マイヘッドホンとシロップなどを愛用。

04:00

4時台に入り、3時台の真夜中バージョンから、爽やかな放送にシフト。中島が“ナンチャッテ気象予報士”になり、本物の天気予報を伝える人気コーナーが始まる。

時にベランダで寒さを体感しながら放送したこともあるが、今日はおとなしくスタジオで読むらしい。
ネット9局のあるエリアの予報を「うぅ、寒っ」「東京より大阪が寒い」などコメントを交えながら、自分流に読み上げる。この日は札幌の「雪 時々やむ」に大きく反応していた。

04:11

ネガティブをお題にして密かな人気の「ネガティブ川柳」、どこかで聞いたことのある「今月のニャンコ」とコーナーは続き、お弁当にまつわるエピソードを紹介する「お弁当物語」へ。

ハガキは、44歳女性から寄せられた、お弁当の時に箸を忘れてしまい、代わりにボールペンとリップブラシで食べたというもの。

これに対し「私もコンビニ弁当をボールペンで食べたことある。ホテルでラーメン作った時、トングでも十分食べられたわよ。金属製だから、ちょっと熱いけどね。ガハハ」と返す。時の流れを感じさせない、あっけらかんぶりがまぶしい。

04:57

いよいよ終了。この日は放送中から情報を収集していたACミラン本田圭佑のデビュー戦に関するニュースで締めた。これぞ生放送の醍醐味。

05:28

ニッポン放送前には中島のファンが出待ち。中には、成人式に参加するためか振り袖を着てキャリーバッグを持った女の子も。天気がよくて本当によかった。おやすみなさい。

師岡とおる イラスト
中島とそれをナビゲートする構成作家がスタジオに入って放送。作家は殿、女性ディレクターは政所さまと呼ばれている。

「ラジオは私とリスナー、
そして社会をつなぐ窓のようなもの」

談・中島みゆき

26年ぶりに『オールナイトニッポン』のレギュラーを始めた理由?それは、単にしゃべりたくなったんでしょうね。途中、単発の番組などもやっていたので、正直ブランクは感じませんでした。
ただ復帰にあたっては、同じことをもう一度やりたくはなかった。そこで思いついたのが、高齢者向け番組(笑)。

1週間が始まる月曜早朝の時間帯って、朝早く目が覚めてしまうじいちゃん、ばあちゃんくらいしか聴いていないだろうと思ったの(笑)。

だって、3時〜5時の放送にどういう心構えで臨めばいいか、事務所の先輩の谷山浩子に聞いたら「誰も聴いちゃいないわよ」って言ってたし(笑)。あっ、そうなのね、好き勝手にやっていいのね、と考えた。

でも実際は、起きて、それも働いている人がいっぱいいる。最近は、時間やいろんなシステムに追われて、夜中に働かなきゃいけない人が増えたんでしょうね。ひぇ〜っ、聴いてたんですかって感じ。

放送が始まってからは、以前の『オールナイトニッポン』を知らない若い世代が「何これ?」と興味を持ってくれることも意外とあります。
何の予備知識もなくコンサートにやってきて、しゃべりになった途端、固まる人が多いから、この番組で免疫をつけてくれるといいわよね(笑)。

番組への投稿は、基本的にハガキで受け付けてます。内容だけじゃなく、文字の表情を見たいんですよね。
強く言いたいところに力がグリグリ入っていたり、勢い余って字が大きくなりすぎて後ろに書くスペースがなくなったり(笑)。あぁ、ここ言いたかったのねと思いながら、こちらもその力に釣られて読んでいる。

確かに、パソコンの文字の方がきれいで読みやすいけど、それじゃ本当に言いたいことがわからない。
天気予報コーナーの原稿なんて、まるでお役所の書類みたいだけど、読み方でニッポン放送カラーにしています。一般の気象予報士なら、絶対に言わないトーンですよね。

『オールナイト』にはカメさん(亀渕昭信)みたいな先輩たちが長年かけて築いてくれた独特のトーンがあります。場の空気とでも言おうか。番組でしゃべる時は、できるだけそれを崩さないよう、またそこに近づけるよう気をつけていますね。

私にとって、ラジオは窓のようなもの。レコーディングとかで、スタジオにずっといると、どんどん内にこもってしまう。

そんな時、外の世界を見せてくれて、新鮮な空気を与えてくれるのがラジオの仕事。
世の中の出来事はもちろん、人の息遣いも感じられる。私も深夜放送を一人で聴いていると、この世界で起きているのは自分だけじゃないという安心感、連帯感を感じるから。

私というパーソナリティを通して、ラジオを聴いてくれている人が、リスナー同士、また社会とつながってくれるといいですね。