〈機械書房〉店主と詩人が語り合う、自主制作詩集を読む楽しみ
岸波龍
平たく言えば、私家版詩集は詩集の自主制作本ですよね。それにある意味、詩の伝統でもある。谷川俊太郎も私家版を作ったことがあるくらいですから。
長尾早苗
詩に関しては谷川さんがやってないことはないほどですしね。
岸波
近年は、1年かけて『現代詩手帖』や『ユリイカ』に投稿し、ある程度の数の作品ができたら本にまとめるという詩人が多いように思います。
長尾
私は毎年春の文学フリマのたびに1冊作ることにしています。広く読んでもらえる機会になったらいいなと。制作のうえでは、20 編で100ページくらいの本になることを目安にしている人が多いのではないでしょうか。
岸波
詩は変ですよね(笑)。例えば小説なら一作入魂といった形で、数編をまとめて本にしようという発想は主流ではありません。ただ、だからこそ私家版詩集は本としてのクオリティが高い。本作りが当たり前になっているわけですから、ほかの文芸ジャンルに先行していると言えるでしょう。造本の魅力を考えれば、アートブックフェアを目指した方がいいんじゃないかと感じているほどです。その点、長尾さんの本は文フリにアジャストしている印象があります。
長尾
アジャストとは考えたことはなかったです(笑)。
岸波
キャッチーなデザインで、800円と手に取りやすい価格。詩集でござい!という雰囲気でないところが魅力なんじゃないかなと。
長尾
本を売る岸波さんならではの視点ですね。作る側としても文フリの影響は大きいと思います。読者も作り手も増えて、本の作りから内容に至るまで多様になってきています。
岸波
特に最近は前衛的な詩が増えているように思います。慣れていないととっつきにくいけれど、面白い。それに本にすれば中原中也賞に応募できる。意識している詩人も少なくないはずです。私家版で受賞した例もあるので、今回紹介した本の中に次の中也賞受賞作が眠っているかもしれません。