Eat

信州人の真髄に触れる、濃ーい味わい。長野県のソウルフード

まだソウルフードなんて呼び名がなかった時代から各地で発展してきた長野県のご当地グルメ。寒冷で冬に野菜が採れないことから漬物文化が根づき、濃い味つけを好む県民性がガッツリ系フードを生み出した。


初出:BRUTUS「BRUTUS特別編集 長野県の大正解」(2021年10月20日発売)

photo: Naohiro Kobayashi(Jingisukan), Shiho Furumaya(Sanzokuyaki, Goheimochi), Shinichi Kanai(Ankakeyakisoba), Kenta Sasaki(Romen, Komagane Saucekatsudon), Haruna Uchiyama(Oyaki) / edit & text: Hiromi Shimada(Romen, Street food) / text: Lisa Obinata(Jingisukan), Atsuko Yamaguchi(Sanzokuyaki), Taeko Ishii(Ankakeyakisoba), Mikiko Tamaki(Komagane Saucekatsudon)

ジンギスカン

“幻の羊肉”といわれる信州産サフォーク

自家製ダレに漬けた信州サフォークジンギスカン。極上ラム3点盛りも人気。


戦前から羊毛のために羊の飼育が盛んだった信州新町。羊毛の需要が激減してからは町おこしとして顔と四肢が黒いサフォーク羊を導入。「ひつじの町・信州新町」と称して、現在もジンギスカンの店が軒を連ねる。〈さぎり荘〉では羊肉の国内流通の99%以上が輸入という実態の中、超稀少な地元産サフォークを提供。リンゴなどを餌に一頭一頭手塩にかけたサフォークは、癖がなく、脂に甘味があり軟らかい。ジンギスカンのほか、岩塩で味わうサフォークスライスも絶品!

山賊焼

ご飯にもお酒にも合う豪快な鶏料理

ミニ・中・大・特大の4サイズ。写真は骨付きの特大(約400g)。通常はカットして提供。テイクアウト可。

塩尻や松本では、スーパーの惣菜売り場でも見かけるほど馴染みのある山賊焼。ニンニク醤油に漬け込んだ鶏のもも肉やむね肉を、片栗粉をまぶして揚げるのが基本。タマネギやショウガを加えるところもある。発祥は諸説あるが、“元祖山賊焼”の石碑がある塩尻の居酒屋〈山賊〉が有力。3代目・高見孝直さんが祖父母の代から約80年受け継ぐスタイルで提供する。骨付きの一枚肉を秘伝のタレに丸1日漬け込んで高温で揚げ、外はカリカリ、中はジューシーに仕上げる。

あんかけ焼きそば

長野の焼きそばの定番は、ソースより……

五目焼きそば。好きな割合で混ぜた「からし酢」をかけて、さっぱり食べるのが定番。

ルーツは大正時代、長野市にあった中華料理店〈福昇亭〉のあんかけ焼きそば。“海なし県”ゆえ海鮮を使わず野菜と肉をどっさり入れた味が人気を呼び、周りの店も独自のレシピで追随したことで「あんかけ文化」が発展した。元祖の味を受け継ぐのが、初代の息女が上田市に開いた〈福昇亭〉。細いちぢれ麺をせいろで蒸した後、中華鍋を返しながらじっくり炒める。パリッと焦げ目がついた麺に豚骨ベースの塩味のあんが絡み、だんだん軟らかな食感に変わるのが醍醐味。

ローメン

“自分流”を楽しむ独特食感の中太蒸し麺

薄味が基本だが〈うしお〉のローメンはしっかりした味つけも特徴。調味料で味変できる。

冷蔵庫が一般的ではなかった昭和30年代、生麺の保存法として考案された蒸し麺は、独特の弾力と四角い断面が特徴。そこに、伊那周辺で盛んに飼育された綿羊の肉(マトン)とキャベツやニンニクを合わせたのがローメンのルーツだ。スープ風と焼きそば風があり、女将の兄が中国で食べていた炒肉菜(チャーローサイ)がベースの〈うしお〉のローメンは焼きそば風の代表格。卓上のソースや酢、ゴマ油などの調味料を存分にかけて自分流にアレンジするのが通の食べ方。躊躇(ちゅうちょ)なくかけるべし。

駒ヶ根ソースカツ丼

キャベツ+ソースが伊那谷スタンダード

ソースカツ丼。2代目店主自慢のクリームコロッケ定食(大)も。

伊那谷で「カツ丼」といえば千切りキャベツを敷いたソースカツ丼が常識。卵とじのカツ丼を「煮カツ丼」と明記するのは有名な話。昭和初期に現在の駒ヶ根市の洋風喫茶で出されたメニューが好評を博し、広まったというのが定説だ。〈駒ヶ根ソースかつ丼会〉には市内の40店以上が加盟し、地元民それぞれのオンリーワンが点在。〈食堂 さわ屋〉のカツ丼は迫力のボリュームはもちろん、注文を受けてから切り出す豚肉、黒砂糖がコクを添える自家製ソースで人気。

ストリートフードの正解!?おやきか、五平餅か問題

実は小麦粉消費量日本一の都市、長野市。その粉もん文化を支える一つが、小麦粉の生地で季節の野菜などの具を包んだ郷土食「おやき」だ。稲作に不向きな県北部の山間地で囲炉裏の灰で焼く技法が町へと伝わり、蒸(ふ)かしや揚げ焼きなど様々な製法が誕生。今や県内のコンビニでも購入でき、ファストフードとしても親しまれる。

おやき

今や貴重な囲炉裏の焼きたて“灰焼きおやき”が味わえる。たっぷり具材と香ばしい薄皮の食感が格別。

一方、稲作が盛んな県南部で愛される「五平餅」は潰した米にタレをつけて焼いたもので、江戸中期には食べられていたとされ、米が貴重だった当時のご馳走。わらじ形や串団子形など多彩な形と多種多様な味つけも魅力だ。1人5合は食べられるおいしさから「五平五合」なんて言葉も。どちらも信州の元祖ストリートフードだ。

五平餅

宿場町・奈良井宿で五平餅といえばここ。醤油と味噌、クルミ、エゴマ、ゴマに山椒が効いた独自のタレが人気。