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豊かで私的な商空間。長野〈guild Bekkan〉の語るに楽しい古物の数々

今、時間も国境も超えて、店主の好きなものを集めた店が面白い。ライフスタイルショップにヴィンテージを置いたり、ヴィンテージ主体の店に、厳選した現行品やオリジナルを加えることで、店主の趣味がより強く発揮され、個性的な空間を生み出している。一期一会の出会いや、ものを介した会話が広がる個性派セレクトショップへ。

photo: Mina Soma / text: Toshie Oowa

長野〈guild Bekkan〉

北海道根室市にある古物店の別館として2019年にオープンした〈guild Bekkan〉。フランスやドイツの陶器、ガラスに紀元前のアフガニスタンの土器まで扱う店内で特に目を引くのは、シーリング用からデスク用など多彩に揃う照明器具だ。

「最初に買った古物がドイツのカイザー社の照明だったんです。部屋の雰囲気を手っ取り早く変えられると気づいて購入して以来、思い入れがあるアイテムです」

そう話す店主・中島孝介さんが力を入れているのは、フランスのグラ・ランプである。デザイナーのベルナール・アルビン・グラが設計した剛健なランプに由来し、ル・コルビュジエが愛用したことでも知られる。話を振ると、現物を指しながらの詳細な解説が始まる。

「これは2年間しか作られなかったモデルで、中でも珍しい銀色のもの。こちらは傘が鉄でできています(定番はアルミ製)。このアームが短いものは、入手した時に既に短く切られていて、自分で台座を付けました。過去には製図用とか、眼科医用の小さなタイプもあったんですよ」。

ランプから離れ、手動型コーヒーミルの並んだ台に目をやれば、「これは自動車で有名なプジョーが、1950~52年の間だけ製造していた《G1》です。あの木製ミルは、製造中止になったG1のパーツを買い取って再利用したと思われるDALTOのもの。分解して調べたら、グラインダーなどの部品も一緒なのでG1の再利用かと。あくまで“僕説”なので確証はないですが(笑)」と、コレクターらから仕入れた情報や知識に基づく自説を披露してくれる。

長野 guild Bekkan 店内 プジョーとDALTOのミル
プジョーとDALTOのミル。

この店では来歴不明の品もこれら“血統書付き”と同等に扱われる。

「器では古伊万里みたいにブランド化された古物ってたくさんありますが、いかにタイトルを外して本質的に見られるかが大事かと思います。僕が仕事を始めた2013年頃は、名のあるものに照準を定めて買い付けに行くことも多かった。でも特定のものを探している時って、隣にすごいものがあっても見落とすんですよ。後から調べて驚くのも、この仕事の面白いところですが、そんな経験をするうち、余計な情報を外して選べるようになりました」

そうして手に入れた古物の背景や逸話を追求することに、静かな喜びを見出すのだという。
古物のほか、長野県山形村の〈家具屋 利右衛門〉に依頼した木工品、根室のスズキタカユキのウェアや古川広道のアクセサリーなど縁のある作家たちの現行品も取り扱う。

この店は、中島さんの興味と探究心、人の輪で成る、豊かで私的な商空間なのだ。

SELLING POINTS

● グラ・ランプほか照明が豊富で貴重なモデルも。
● 店主の幅広い知識で、古物の来歴が明らかに。
● 根室や長野の作家やデザイナーの現行品も。