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長井短「優しさ告げ口委員会」:躊躇ない人

演劇モデル、長井短さんが日常で出会った優しい人について綴る連載エッセイ、第39回。前回の「再生しとく人」も読む。

text & illustration: Mijika Nagai

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「躊躇ない人」

最近忙しいしぐったりしちゃったから、もうこれはエムアイカード(百貨店の伊勢丹と三越が発行しているクレジットカード。)作ろう。突如思い立った謎のセルフケア精神に突き動かされて、爆速で伊勢丹に行った。自分でも意味がわからないけど、こういう風にしか元気を出せない時ってあるのだ。到着した勢いのまま1階を歩いていると「新規登録」の旗の下、虚空を見つめて立っている男性がいた。

「エムアイカード作りたいです」。ハキハキ発語すると、お兄さんは少し面食らったような顔をした。こんなに迷いなく自分から作りにくるの、ちょっと怖いか。ギンギンの瞳を諫めて席に着く。お兄さんはテキパキと手続きを進めてくれて、私は言われた通りに個人情報を入力していった。それにしても、とんでもない勢いでここまで来たな。早歩きで上がった心拍が落ち着くにつれて、鼻水が垂れてくる。はいはい寒暖差ね。

長井短「優しさ告げ口委員会」:躊躇ない人

作り終わったらトイレに行って鼻をかもうと思いながら入力を続けていると、視線の中に赤い長方形が入ってくる。「これ、よかったら使います?」。それは使いかけのポケットティッシュだった。どこからどう見ても、街で配られてるやつ。口が開いてクタクタになったそれはもうかなり薄くなっていて、お兄さんが使い込んできたことがわかる状態だった。

え、優しくない?鼻水の世話までしてくれんの?さすがエムアイカードだぜって思いかけるけど違う違う。これはお兄さんの優しさだ。入口に近いこのブースは冷える。そこで手続きを行う他人に、自分のティッシュを分けてくれるあなたは、優しさに躊躇(ちゅうちょ)がないのだろう。私も、呼吸するように手を差し伸べられるような人間でありたい。

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