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長井短「優しさ告げ口委員会」:再生しとく人

演劇モデル、長井短さんが日常で出会った優しい人について綴る連載エッセイ、第38回。前回の「祝いを撒く人」も読む。

text & illustration: Mijika Nagai

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「再生しとく人」

結婚した友達の家に3人で遊びに行った時のことだ。沢山のお酒と用意してくれた美味(おい)しいご飯を口に入れて、同じ口で喋(しゃべ)り続ける。高校時代、4人で同じクラスになったことはなかった。なのになんでうちらこうなったんだろうねと笑っていれば、すぐに終電の時間になる。

家主はわたしたちを追い立てず「いていいよ」と言った。マジ?夫は大丈夫なのって気にするそぶりをしながらも身体は微動だにしないその瞬間、鍵の開く音がする。夫だ!

仕事から帰ってきた彼は私達を見るなり顔を綻(ほころ)ばせ「初めましてぇ。ゆっくりしていってください」と言ってくれ既に最高。お言葉に甘えて5人でしばらく話し込み、どのくらい経っただろう。彼はごく自然な流れで別の部屋へと消えた。

長井短「優しさ告げ口委員会」:再生しとく人

その後、壁の向こうからサッカーの試合中継の音が聞こえてくる。こんな夜中に見るって相当好きなんだなと思ったのは一瞬で、違う。これは気遣いだ。退席自体「あとはダチ達でどうぞ」ってウィンクが込められていたけれど、彼はさらに先へ。自分の好きなサッカーを大きめの音で見ることで、私達を4人きりにしてくれたのだ。

話し声が彼に聞こえることはない。だから安心してよ。僕がいると話しにくいこともあるでしょう?言外の優しさ、しかと受け取りました。

一体どこで習ったのだろう。大きめの音を出しておくことは、近くにいる人間をリラックスさせることが可能っていうライフハックを学んだ私は、これから先もし家に夫の友達が来たら絶対に真似しようと決める。みんなが、束の間の再会を楽しめるように。ありがとう、ダチの夫。そして結婚おめでとう!りな!

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