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長井短「優しさ告げ口委員会」:駄々こねる人

演劇モデル、長井短さんが日常で出会った優しい人について綴る連載エッセイ、第32回。前回の「見てるぜっの人」も読む。

text & illustration: Mijika Nagai

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「駄々こねる人」

暑さがきつすぎるから、ということにして。今年の夏はとにかく家の中にいた。旅行にも出かけず、飲みにいく回数も少ない。とても静かな夏だった。私の身体がそれを望んでいるからそうしているんだけど、やっぱりどうにも心残りを感じて、8月最後の週末は盆踊り大会に行った。大規模なものではない地域に根ざしたお祭りだから、人混みもそこそこだし、みんななんとなくリラックスした雰囲気を纏っている。あぁ、来てよかった。このくらいで十分だ。見よう見まねで東京音頭、炭坑節。踊っていけば、どんどん汗をかいていく。休みたいと思うけれど、やっと身体に馴染み始めた振付を忘れるのが惜しくって、とにかく踊りまくった。祭りも残すところあと少し。プレイリストを発表し続けるおばさんのアナウンスが、一際大きく会場に響き渡る。

長井短のイラスト

「次が最後の踊りです。東京音頭、炭坑節、渋谷音頭の3曲です。最後なので、渋谷音頭は2回連続でかけます」。いやそれ4曲じゃん!思わず噴き出してしまう。まだまだ踊り続けたいという強い意志。子供の屁理屈みたいな仕組みで、少しでも長く踊らせてくれようとする運営陣は、お盆にだけ遊べる従兄弟のようだった。「あと一回だけ」「もう一回だけ」。そんな風に一分一秒でも別れを引き延ばそうとしたのって、最後はいつだろう。大人になった私はもう、帰りたくなければ帰らないことができる。それはとても幸せだけど、無理を通そうとする駄々が今日を特別にしていたことを思い出した。2回転目の渋谷音頭はくたくたで大変だったけど、駄々ってそういうものだから。思い出させてくれてありがとう。

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