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長井短「優しさ告げ口委員会」:タクシー探す人

演劇モデル、長井短さんが日常で出会った優しい人について綴る連載エッセイ、第30回。前回の「肩入れする人」も読む。

text & illustration: Mijika Nagai

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タクシー探す人

深夜0時過ぎ、ロケバスは新宿駅へ向かう。本降りになってきた雨の中、私はぼーっと外を見つめた。周りからはスタッフさん達の寝息が聞こえてきて、修学旅行の帰りみたい。知らない道は段々と知ってるものに変わっていき、車は新宿で高速を降りる。

西口地下で降ろしてもらうのが定番で、そこに向かってくれているんだとわかった。そこからはみんなタクシーチケットを使って家に帰れる。さぁそろそろだと思ったのに、車は減速しただけでロータリーをスルー。そのまま地上へ戻っていった。

ん?珍しいこともあるもんだなと様子を窺うと、車は地上ロータリーをグルグルしたのち、また潜る。もしかしてさっきはうまく止まれなかったのか?再度地下へ到着したロケバスは止まらない。え〜なんで?着いたよ?車は来た道を戻り都庁方面へ。マジで何が起きてるんだ……。

不安に思ったその時、遂に車は止まった。灯りのついた車内でモゾモゾとみんなが動き出す。「駅前タクシーいなかったからいつもと違うけど。そこにいっぱい止まってるから」。うわあすげえ!この人ずっと、タクシー溜まりを探してたんだ!深夜1時、外は雨。十人弱でタクシーを待つなんて確かに最悪だ。この車両さんはそれを見越して、すぐにみんながタクシーを捕まえられる場所に導いてくれたのだ。

長井短イラスト「優しさ告げ口委員会」:タクシー探す人

なんて優しい人。そんなマニュアルきっとない。今日は遅くて明日も早い仲間達に、少しでもスムーズな帰宅をという思いやりは誰に倣うでもなく彼が生み出したものだろう。私もそういうオリジナルを作っていきたいなと思いながら、足早にタクシーに乗った。

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