沼落ちさせる人
特別な時にだけ、覗きに行く雑貨屋さんがある。そこは住宅街に突然現れる、隅から隅まで品の良い輸入雑貨のお店で、私は毎回体カチコチ、それがバレないようにできるだけゆっくり店内を歩くようにしている。その日も私は、こなれ感をできるだけ演出しながら、慎重に店内を歩いた。プレゼントを決め包装してもらっている間、もう一度店内を歩き回っていると、おばさまから声をかけられた。
「カフェは行ったことある?」。花を生けながら突然話しかけてきたその人こそが、この店のボス。一気に体に緊張が走る。「ないんですよぉ」。マスクの下で精一杯、ほどけた笑顔を作りながらそう答えると「今日時間ある?あったらぜひ食べていって」。時間は、あります。
気づけば「お邪魔します」と答えていて、あれよあれよと2階へ。雑貨売り場の奥に広がるカフェからは、ボスの豪邸と庭が見渡せる。す、すごい……。見惚れてる間に注文したコーヒーとケーキが到着。美味しい。美味しいですほんと凄いです……予想外の優雅さに包まれた私はホクホクしながらアフタヌーンを終え、1階の会計へ。おいくらですかと声をかけると「あぁ、結構ですよ。お口に合いました?」と返されて驚愕。ポカンと開いた口をどうにか閉めて「ありがとうございます」と伝えた。
何が起きたの……突然すぎるサービスへの動揺はなかなか直らない。なんて凄い店なんだ。こんなの、好きになるに決まってる。招かれたことでまず嬉しくて、しかもサービスだなんて!ふと、ホストってこんな感じでハマるのかなと思い至って笑ってしまいながらも、私は完全に沼に落ちました。