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長井短「優しさ告げ口委員会」:祝福の人

演劇モデル、長井短さんが日常で出会った優しい人について綴る連載エッセイ、第17回。前回の「プロ清掃の人」も読む。

text&illustration: Mijika Nagai

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やっと念願叶って幼馴染みの別荘に1泊2日の小旅行に出かけた。彼らとは幼稚園以前からの付き合いで、一人っ子の私にとってみんなは兄弟のような存在だ。血の繋がらない兄弟5人で軽井沢まで。付き合いは長いけれどこんな風に子供だけで遠くに泊まりに行くのは初めてのことだった。

買い物を済ませて別荘に到着すると、椅子や机、飾ってある絵はもちろん、ジャムを塗るためのナイフとか並んだ瓶、室内に立っている柱まで、全部が彼の家族を目一杯表現していて、なんて素敵なおうちなんだろう。

「これお父さんから」そう言って彼が見せてくれたのはライン画面で、どうやらお父さんは私たちにウェルカムドリンクを用意してくれているらしい。カウンターに目を向けると、そこには赤ワインのボトルと、それを囲むように並んだ5つのワイングラスがあった。後ろにかかっている小さな黒板には「welcome」と書かれていて、あぁこんなことをされたら……嬉しさが止まらない。

長井短「優しさ告げ口委員会」:祝福の人_表紙

私たちの初めての小旅行が、もっと楽しいものになるようにって気持ちが真っ直ぐに伝わってくる。まず何する?って考えてたけど話し合うまでもなく決定。絵本みたいに柔らかい午後の日差しの中で、私たちはありがたくその赤ワインを頂く。

きっと、私たちは何もなくたって一緒にいれば楽しい。そのことを家族はよく知っている。その上でプレゼントしてくれたこの赤ワインに詰まっているのは祝福だ。なくても楽しいものをプレゼントするって、たぶんそういうことなのだ。必要から逃れたところで呼吸できる彼の両親は本当にかっこよくて、私もそんな風に歳を重ねたい。

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