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長井短「優しさ告げ口委員会」:船頭な人

演劇モデル、長井短さんが日常で出会った優しい人について綴る連載エッセイ、第12回。前回の「爆裂笑顔な人」も読む。

Text&Illustration: Mijika Nagai

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参拝客が戻ってきたとかってニュースを見て、今年の初詣は少し遅らせようと決める。
本当は、人混みで ぐちゃぐちゃになりながらお賽銭を遠投したいけど、今はまだその時じゃない。 流石にみんな仕事始めしただろってタイミングで、私は夫と両親の4人で神社に向かう。

家族はわ ナンバーの軽自動車にピッタリ収まった。その見事な収まりっぷりはフィクションみたいに完璧で、こういう奇跡みたいな瞬間を今年も積み重ねていきたい。空いていると思った神社の駐車場は、満車じ ゃないけど並んでいて、一列に並んだ車の最後尾に並ぶ。列はじわじわ進み続けて、見た目ほど時間はかからなそうだ。あっという間に列の先頭に躍り出る。が、そこにトラップが仕掛けられていた。辿り着いた先頭は、左右の分岐点だったのだ。

でも、どちらに進めば駐車できるのかがわからない。目視する限り、左右どちらも空いたスペースはない。無理ゲーか?4人で相談しながらキョロキョロとあたりを見渡しても、空きスペースは見当たらない。後ろの車から、うっすらとプレッシャーを感じる。私たちが先頭で悩んでいるせいで、列が進まなくなっているのだ。

長井短_ブルータス_エッセイ_優しさ告げ口委員会_船頭な人

あぁどうしよう。出るか?と思った車は今まさに入れるところだし、でも確かに入口には「空」と書かれていたし。ちょっともうわかんないから降りて 探してくるわとシートベルトを外した時右ルートに人影が見える。手を振っている。そして奥を指差している。「あっちか!」夫がアクセルを踏み、車はゆっくり動き出した。

私たち4人はみんなペコペコ頭を下げながら「優しいね」「すごいね」「良い人だね」と口々に船頭兄さんを称える。困っている人を街で見かけた時、こうしたら助かるかな?と頭をよぎることがある。でも、お節介かなとか、間違ってるかなって色々考えてしまって、結局身動きが取れなくなることは多い。直接声をかけられる距離にないは尚更だ。伝わるかどうかわからないコミュニケーションは怖い。それなのに船頭兄さんは、その恐怖を乗り越えて私たちを助けてくれたのだ。

ボディランゲージで、私たちとの数十メートルの距離も、分厚いフロントガラスも飛び越える。かっこいい。私も今年は、船頭兄さんのような大胆な優しさを身につけたいと思った。考えすぎず、電光石火で優しさを働かせる。思わぬ新年の目標をくれた船頭兄さんの幸せを、少しだけ神に祈ってみたりして、新年あけましておめでとうございます。 

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