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長井短「優しさ告げ口委員会」:大喜びする人

演劇モデル、長井短さんが日常で出会った優しい人について綴る連載エッセイ、第2回。前回の「ホッカイロくれる人」も読む。

Text&Illustration: Mijika Nagai

現在放送中の『書けないッ!?〜脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活〜』というドラマの撮影で、俳優の北村有起哉さんに出会った。もちろん有起哉さんのことは元々知っていて、素敵だなぁって思いはあったのだけど、実際にご一緒するとなると、片思いしていた分緊張感は高まる。

凄い怖い武士みたいな人だったらどうしよう。全然あり得るぞ。ていうか、ドラマのクランクイン自体が大緊張イベントだってことも忘れちゃいけない。初めて会う人とせーので何かを作ることに、私はいつまで経っても慣れないのだ。

緊張で身体がカチコチになるのはわかってるんだから、いつも以上に準備をして、いっぱい寝て、朝一番に支度部屋に入る。あ〜怖〜でも怖がってても仕方ない。人はどうせ死ぬ。人はどうせ死ぬから大丈夫。結局死ぬから。そんな風に言い聞かせていると、一番最初のシーンが始まって、緊張は全く解けないままあれよあれよと撮影は進む。

長井短 イラスト

ガチガチのまま最初のシーンが終わった時、有起哉さんの大きな声が現場に響いた。「よっしゃーーーー!!!」。信じられないくらいデカい声で、信じられないくらい喜んでいる。クランクアップでもないのに、1シーン撮り終わっただけでこんなに喜ぶ人初めて見た。それはスタッフさん達も同じだったみたいで、現場にいるみんなが笑う。

「そんな喜びます?」っていう監督の問いに有起哉さんは「最初のシーンが出来たからね、あ〜よかった!」ってはにかんでいて、つられてみんなも「よかった」などと呟いた。な〜んだみんなドキドキしてたんじゃんって思った瞬間、身体が柔らかくなっていることに気付く。

「よっしゃーーーー!!!」を頭の中で再生し直すと、「みんな同じだよ」って言葉みたいに聞こえてきて、ホッとしている姿を見ると、有起哉さんも緊張していたんだってことがわかる。一番先輩の有起哉さんが緊張するなら、私が緊張するのも当たり前だって安心する。安心は心を温めて、温かさは柔らかさになる。

たった一言で、ここまで人を柔らかくできる人に私は今まで会ったことがなくて、あの「よっしゃーーーー!!!」が本音でも気遣いでも、どちらにしても魔法だと思った。魔法にかかった私達は、クランクアップまでの怒濤の撮影を楽しく元気に頑張れて、作品も良いものになったと思う。

自分が先輩になったら、私も有起哉さんみたいに大喜びしようと思う。私がホッとすることで、安心できる人がいる。「同じだよ」を伝えるのは言葉だけではないのだ。